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「侏儒の言葉」は必しもわたしの思想を傳へるものではない。唯わたしの思想の變化を時々窺はせるのに過ぎぬものである。一本の草よりも一すぢの蔓草、――しかもその蔓草は幾すぢも蔓を伸ばしてゐるかも知れない。 芥川龍之介
底本:「芥川龍之介全集 第九卷」岩波書店    1978(昭和53)年4月24日初版発行    1983(昭和58)年1月20日第2刷発行 初出:「侏儒の言葉」文藝春秋社出版部    1927(昭和2)年12月6日初版発行 入力:高柳典子 校正:多羅尾伴内 2003年6月29日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "024451", "作品名": "「侏儒の言葉」の序", "作品名読み": "しゅじゅのことばのじょ", "ソート用読み": "しゆしゆのことはのしよ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「侏儒の言葉」文藝春秋社出版部、1927(昭和2)年12月6日初版", "分類番号": "NDC 914 917", "文字遣い種別": "旧字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2003-07-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カード...
       一  近年にない暑さである。どこを見ても、泥で固めた家々の屋根瓦が、鉛のやうに鈍く日の光を反射して、その下に懸けてある燕の巣さへ、この塩梅では中にゐる雛や卵を、そのまゝ蒸殺してしまふかと思はれる。まして、畑と云ふ畑は、麻でも黍でも、皆、土いきれにぐつたりと頭をさげて、何一つ、青いなりに、萎れてゐないものはない。その畑の上に見える空も、この頃の温気に中てられたせいか、地上に近い大気は、晴れながら、どんよりと濁つて、その所々に、霰を炮烙で煎つたやうな、形ばかりの雲の峰が、つぶつぶと浮かんでゐる。――「酒虫」の話は、この陽気に、わざ〳〵炎天の打麦場へ出てゐる、三人の男で始まるのである。  不思議な事に、その中の一人は、素裸...
底本:「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店    1995(平成7)年11月8日発行 親本:「鼻」春陽堂    1918(大正7)年7月8日発行 入力:earthian 校正:林めぐみ 1998年11月13日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000161", "作品名": "酒虫", "作品名読み": "しゅちゅう", "ソート用読み": "しゆちゆう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "1916(大正5)年6月「新思潮」", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-13T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/0...
 成瀬君  君に別れてから、もう一月の余になる。早いものだ。この分では、存外容易に、君と僕らとを隔てる五、六年が、すぎ去ってしまうかもしれない。  君が横浜を出帆した日、銅鑼が鳴って、見送りに来た連中が、皆、梯子伝いに、船から波止場へおりると、僕はジョオンズといっしょになった。もっとも、さっき甲板ではちょいと姿を見かけたが、その後、君の船室へもサロンへも顔を出さなかったので、僕はもう帰ったのかと思っていた。ところが、先生、僕をつかまえると、大元気で、ここへ来るといつでも旅がしたくなるとか、己も来年かさ来年はアメリカへ行くとか、いろんなことを言う。僕はいいかげんな返事をしながら、はなはだ、煮切らない態度で、お相手をつとめていた。第一、...
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月12日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000160", "作品名": "出帆", "作品名読み": "しゅっぱん", "ソート用読み": "しゆつはん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1916(大正5)年10月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-12T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/...
        一  じゅりあの・吉助は、肥前国彼杵郡浦上村の産であった。早く父母に別れたので、幼少の時から、土地の乙名三郎治と云うものの下男になった。が、性来愚鈍な彼は、始終朋輩の弄り物にされて、牛馬同様な賤役に服さなければならなかった。  その吉助が十八九の時、三郎治の一人娘の兼と云う女に懸想をした。兼は勿論この下男の恋慕の心などは顧みなかった。のみならず人の悪い朋輩は、早くもそれに気がつくと、いよいよ彼を嘲弄した。吉助は愚物ながら、悶々の情に堪えなかったものと見えて、ある夜私に住み慣れた三郎治の家を出奔した。  それから三年の間、吉助の消息は杳として誰も知るものがなかった。  が、その後彼は乞食のような姿になって、再び浦上村...
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年12月28日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000063", "作品名": "じゅりあの・吉助", "作品名読み": "じゅりあの・きちすけ", "ソート用読み": "しゆりあのきちすけ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1919(大正8)年9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozor...
俊寛云いけるは……神明外になし。唯我等が一念なり。……唯仏法を修行して、今度生死を出で給うべし。源平盛衰記 (俊寛)いとど思いの深くなれば、かくぞ思いつづけける。「見せばやな我を思わぬ友もがな磯のとまやの柴の庵を。」同上 一  俊寛様の話ですか? 俊寛様の話くらい、世間に間違って伝えられた事は、まずほかにはありますまい。いや、俊寛様の話ばかりではありません。このわたし、――有王自身の事さえ、飛でもない嘘が伝わっているのです。現についこの間も、ある琵琶法師が語ったのを聞けば、俊寛様は御歎きの余り、岩に頭を打ちつけて、狂い死をなすってしまうし、わたしはその御死骸を肩に、身を投げて死んでしまったなどと、云っているではありませんか? ...
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「中央公論」    1922(大正11)年1月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2012年3月20日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)...
{ "作品ID": "000159", "作品名": "俊寛", "作品名読み": "しゅんかん", "ソート用読み": "しゆんかん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1922(大正11)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards...
     一 白襷隊  明治三十七年十一月二十六日の未明だった。第×師団第×聯隊の白襷隊は、松樹山の補備砲台を奪取するために、九十三高地の北麓を出発した。  路は山陰に沿うていたから、隊形も今日は特別に、四列側面の行進だった。その草もない薄闇の路に、銃身を並べた一隊の兵が、白襷ばかり仄かせながら、静かに靴を鳴らして行くのは、悲壮な光景に違いなかった。現に指揮官のM大尉なぞは、この隊の先頭に立った時から、別人のように口数の少い、沈んだ顔色をしているのだった。が、兵は皆思いのほか、平生の元気を失わなかった。それは一つには日本魂の力、二つには酒の力だった。  しばらく行進を続けた後、隊は石の多い山陰から、風当りの強い河原へ出た。 「おい...
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月12日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000156", "作品名": "将軍", "作品名読み": "しょうぐん", "ソート用読み": "しようくん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1922(大正11)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-12T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/0...
 天草の原の城の内曲輪。立ち昇る火焔。飛びちがふ矢玉。伏し重なつた男女の死骸。その中に手を負つた一人の老人。老人は石垣の上に懸けた麻利耶の画像を仰ぎながら、高声に「はれるや」を唱へてゐる。  忽ち又一発の銃弾。  老人はのけざまに仆れたぎり、二度と起き上る気色は見えない。白衣の聖母は石垣の上から、黙黙とその姿を見下してゐる。おごそかに、悠悠と。  白衣の聖母? いや、わたしは知つてゐる。それは白衣の聖母ではない。明らかに唯の女人である。一朶の薔薇の花を愛する唯の紅毛の女人である。見給へ。その女人の下にはかう云ふ金色の横文字さへある。ウイルヘルム煙草商会、アムステルダム。阿蘭陀……
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003813", "作品名": "商賈聖母", "作品名読み": "しょうこせいぼ", "ソート用読み": "しようこせいほ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3...
 始皇帝がどう思つたか、本を皆焼いてしまつたので、神田の古本屋が職を失つたと新聞に出てゐるから、ひどい事をしたもんだと思つて、その本の焼けあとを見に丸ノ内へ行かうとすると、銀座尾張町の四つ角で、交番の前に人が山のやうにたかつてゐる。そこで後から背のびをして覗いて見ると、支那人の婆さんが一人巡査の前でおいおい云ひながら泣いてゐた。尤も支那人と云つても、今の支那人ではない。平福百穂さんの予譲の画からぬけ出したやうな、古雅な服装をした婆さんである。巡査はいろいろ説諭をしてゐるが、婆さんの耳には少しもそれがはいらないらしい。何しろあんまり婆さんの泣き方が猛烈だから、どうしたんだらうと思つて見てゐると、側にゐたどこかのメツセンヂア・ボイが二人...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003801", "作品名": "饒舌", "作品名読み": "じょうぜつ", "ソート用読み": "しようせつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3801.ht...
 一 小説はあらゆる文芸中、最も非芸術的なるものと心得べし。文芸中の文芸は詩あるのみ。即ち小説は小説中の詩により、文芸の中に列するに過ぎず。従つて歴史乃至伝記と実は少しも異る所なし。  二 小説家は詩人たる以外に歴史家乃至伝記作者なり。従つて人生(一時代に於ける一国の)と相亘らざるべからず。紫式部より井原西鶴に至る日本の小説家の作品はこの事実を証明すべし。  三 詩人は常に自己の衷心を何人かに向つて訴ふるものなり。(女人をくどく為に恋歌の生じたるを見よ。)既に小説家は詩人たる以上に歴史家乃至伝記作者なりとせん乎、伝記の一つなる自叙伝作者も小説家自身の中に存在すべし。従つて小説家は彼自身暗澹たる人生に対することも常人より屡々ならざるべ...
底本:「芥川龍之介全集 第十六巻」岩波書店    1997(平成9)年2月10日発行 初出:「新潮 第二四年第九号」    1927(昭和2)年9月1日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:土屋隆 2008年12月9日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "004313", "作品名": "小説作法十則", "作品名読み": "しょうせつさほうじっそく", "ソート用読み": "しようせつさほうしつそく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮 第二四年第九号」1927(昭和2)年9月1日", "分類番号": "NDC 901", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2009-01-21T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https...
 売文に関する法律は不備を極めてゐるやうである。たとへば或雑誌社に若干枚の短篇を一つ渡し、若干円を貰つたとする。その時その若干金は小説そのものだけを売つた金か、それとも小説の書いてある若干枚の原稿用紙を売つた金か、法律には何とも規定されてゐない。これは我我の原稿ならば兎も角、夏目先生の原稿にでもなれば当然問題を生ずる筈である。が、まあそんなことはどうでも好い。差当り頗る困ることは或種の著作権侵害である。  たとへばこの間菊池寛は小説「義民甚兵衛」を三幕の戯曲に書直した。あれを菊池自身はやらずに、僕でも戯曲に書直したとする。その場合僕は友誼上、或は慣例上一応菊池の許可を待つた後、戯曲に書直すのに違ひない。のみならずその原稿料乃至上場料...
底本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店    1996(平成8)年9月9日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "004278", "作品名": "小説の戯曲化", "作品名読み": "しょうせつのぎきょくか", "ソート用読み": "しようせつのききよくか", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 901", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00...
 僕の経験するところによれば、今の小説の読者といふものは、大抵はその小説の筋を読んでゐる。その次ぎには、その小説の中に描かれた生活に憧憬を持つてゐる。これには時々不思議な気持がしないことはない。  現に僕の知つてゐる或る人などは随分経済的に苦しい暮らしをしてゐながら、富豪や華族ばかり出て来る通俗小説を愛読してゐる。のみならず、この人の生活に近い生活を書いた小説には全然興味を持つてゐない。  第三には、第二と反対に、その次ぎには読者自身の生活に近いものばかり求めてゐる。  僕はこれらを必ずしも悪いこととは思つてゐない。この三つの心持ちは、同時に僕自身の中にも存在してゐる。僕は筋の面白い小説を愛読してゐる。それから僕自身の生活に遠い生活...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003794", "作品名": "小説の読者", "作品名読み": "しょうせつのどくしゃ", "ソート用読み": "しようせつのとくしや", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00087...
     一 クリスマス  昨年のクリスマスの午後、堀川保吉は須田町の角から新橋行の乗合自働車に乗った。彼の席だけはあったものの、自働車の中は不相変身動きさえ出来ぬ満員である。のみならず震災後の東京の道路は自働車を躍らすことも一通りではない。保吉はきょうもふだんの通り、ポケットに入れてある本を出した。が、鍛冶町へも来ないうちにとうとう読書だけは断念した。この中でも本を読もうと云うのは奇蹟を行うのと同じことである。奇蹟は彼の職業ではない。美しい円光を頂いた昔の西洋の聖者なるものの、――いや、彼の隣りにいるカトリック教の宣教師は目前に奇蹟を行っている。  宣教師は何ごとも忘れたように小さい横文字の本を読みつづけている。年はもう五十を越...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月8日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000155", "作品名": "少年", "作品名読み": "しょうねん", "ソート用読み": "しようねん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1924(大正13)年4、5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/car...
 貴問に曰、近来娼婦型の女人増加せるを如何思ふ乎と。然れども僕は娼婦型の女人の増加せる事実を信ずる能はず。尤も女人も家庭の外に呼吸する自由を捉へたれば、当代の女人の男子を見ること、猛獣の如くならざるは事実なるべし。こは勿論娼婦型の女人の増加せる結果と言ふこと能はず。又産児を免るべき科学的方法並びに道徳的論も略完全に具りたれば当代の女人の必しも交合を恐れざるは事実なるべし。若し今日の社会制度に若干の変化を生じたる後、あらゆる童子の養育は社会の責任になり了らん乎、この傾向の今日よりも一層増加するは言ふを待たず。然れども畢に交合は必然に産児を伴ふ以上、男子には冒険でも何でもなけれど、女人には常に生死を賭する冒険たるを免れざるべし。若し常に...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003770", "作品名": "娼婦美と冒険", "作品名読み": "しょうふびとぼうけん", "ソート用読み": "しようふひとほうけん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/0008...
 金沢の方言によれば「うまさうな」と云ふのは「肥つた」と云ふことである。例へば肥つた人を見ると、あの人はうまさうな人だなどとも云ふらしい。この方言は一寸食人種の使ふ言葉じみてゐて愉快である。  僕はこの方言を思ひ出すたびに、自然と僕の友達を食物として、見るやうになつてゐる。  里見弴君などは皮造りの刺身にしたらば、きつと、うまいのに違ひない。菊池君も、あの鼻などを椎茸と一緒に煮てくへば、脂ぎつてゐて、うまいだらう。谷崎潤一郎君は西洋酒で煮てくへば飛び切りに、うまいことは確である。  北原白秋君のビフテキも、やはり、うまいのに違ひない。宇野浩二君がロオスト・ビフに適してゐることは、前にも何かの次手に書いておいた。佐佐木茂索君は串に通し...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003795", "作品名": "食物として", "作品名読み": "しょくもつとして", "ソート用読み": "しよくもつとして", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/ca...
       一  元治元年十一月二十六日、京都守護の任に当つてゐた、加州家の同勢は、折からの長州征伐に加はる為、国家老の長大隅守を大将にして、大阪の安治川口から、船を出した。  小頭は、佃久太夫、山岸三十郎の二人で、佃組の船には白幟、山岸組の船には赤幟が立つてゐる。五百石積の金毘羅船が、皆それぞれ、紅白の幟を風にひるがへして、川口を海へのり出した時の景色は、如何にも勇ましいものだつたさうである。  しかし、その船へ乗組んでゐる連中は、中々勇ましがつてゐる所の騒ぎではない。第一どの船にも、一艘に、主従三十四人、船頭四人、併せて三十八人づつ乗組んでゐる。だから、船の中は、皆、身動きも碌に出来ない程狭い。それから又、胴の間には、沢庵漬...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年3月16日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000148", "作品名": "虱", "作品名読み": "しらみ", "ソート用読み": "しらみ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「希望」1916(大正5)年5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-03-16T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/...
 久保田万太郎君の「しるこ」のことを書いてゐるのを見、僕も亦「しるこ」のことを書いて見たい欲望を感じた。震災以來の東京は梅園や松村以外には「しるこ」屋らしい「しるこ」屋は跡を絶つてしまつた。その代りにどこもカツフエだらけである。僕等はもう廣小路の「常盤」にあの椀になみなみと盛つた「おきな」を味ふことは出來ない。これは僕等下戸仲間の爲には少からぬ損失である。のみならず僕等の東京の爲にもやはり少からぬ損失である。  それも「常盤」の「しるこ」に匹敵するほどの珈琲を飮ませるカツフエでもあれば、まだ僕等は仕合せであらう。が、かう云ふ珈琲を飮むことも現在ではちよつと不可能である。僕はその爲にも「しるこ」屋のないことを情けないことの一つに數へざ...
底本:「芥川龍之介全集 第九卷」岩波書店    1978(昭和53)年4月24日初版発行    1983(昭和58)年1月20日第2刷発行 初出:「スヰート 第二卷第三號」明治製菓株式會社    1927(昭和2)年6月15日 入力:高柳典子 校正:多羅尾伴内 2003年6月29日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "024452", "作品名": "しるこ", "作品名読み": "しるこ", "ソート用読み": "しるこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「スヰート 第二巻第三号」明治製菓株式会社、1927(昭和2)年6月15日", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "旧字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2003-07-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aoz...
一  ある春の午過ぎです。白と云う犬は土を嗅ぎ嗅ぎ、静かな往来を歩いていました。狭い往来の両側にはずっと芽をふいた生垣が続き、そのまた生垣の間にはちらほら桜なども咲いています。白は生垣に沿いながら、ふとある横町へ曲りました。が、そちらへ曲ったと思うと、さもびっくりしたように、突然立ち止ってしまいました。  それも無理はありません。その横町の七八間先には印半纏を着た犬殺しが一人、罠を後に隠したまま、一匹の黒犬を狙っているのです。しかも黒犬は何も知らずに、犬殺しの投げてくれたパンか何かを食べているのです。けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬の黒なのです。毎...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「女性改造」    1923(大正12)年8月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2012年3月22日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で...
{ "作品ID": "000149", "作品名": "白", "作品名読み": "しろ", "ソート用読み": "しろ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「女性改造」1923(大正12)年8月", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00087...
一  或秋の午頃、僕は東京から遊びに来た大学生のK君と一しょに蜃気楼を見に出かけて行った。鵠沼の海岸に蜃気楼の見えることは誰でももう知っているであろう。現に僕の家の女中などは逆まに舟の映ったのを見、「この間の新聞に出ていた写真とそっくりですよ。」などと感心していた。  僕等は東家の横を曲り、次手にO君も誘うことにした。不相変赤シャツを着たO君は午飯の支度でもしていたのか、垣越しに見える井戸端にせっせとポンプを動かしていた。僕は秦皮樹のステッキを挙げ、O君にちょっと合図をした。 「そっちから上って下さい。――やあ、君も来ていたのか?」  O君は僕がK君と一しょに遊びに来たものと思ったらしかった。 「僕等は蜃気楼を見に出て来たんだよ。...
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:「婦人公論 第十二年第三号」    1927(昭和2)年3月1日発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月24日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000147", "作品名": "蜃気楼", "作品名読み": "しんきろう", "ソート用読み": "しんきろう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「婦人公論 第十二年第三号」1927(昭和2)年3月1日", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-24T00:00:00", "最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.g...
 桜 さつぱりした雨上りです。尤も花の萼は赤いなりについてゐますが。  椎 わたしもそろそろ芽をほごしませう。このちよいと鼠がかつた芽をね。  竹 わたしは未だに黄疸ですよ。…………  芭蕉 おつと、この緑のランプの火屋を風に吹き折られる所だつた。  梅 何だか寒気がすると思つたら、もう毛虫がたかつてゐるんだよ。  八つ手 痒いなあ、この茶色の産毛のあるうちは。  百日紅 何、まだ早うござんさあね。わたしなどは御覧の通り枯枝ばかりさ。  霧島躑躅 常――常談云つちやいけない。わたしなどはあんまり忙しいもんだから、今年だけはつい何時にもない薄紫に咲いてしまつた。  覇王樹 どうでも勝手にするが好いや。おれの知つたことぢ...
底本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店    1996(平成8)年9月9日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "004280", "作品名": "新緑の庭", "作品名読み": "しんりょくのにわ", "ソート用読み": "しんりよくのにわ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1924(大正13)年6月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr....
 或春の午後であつた。私は知人の田崎に面会する為に彼が勤めてゐる出版書肆の狭い応接室の椅子に倚つてゐた。 「やあ、珍しいな。」  間もなく田崎は忙しさうに、万年筆を耳に挟んだ儘、如何はしい背広姿を現した。 「ちと君に頼みたい事があつてね、――実は二三日保養旁、修善寺か湯河原へ小説を書きに行きたいんだが、……」  私は早速用談に取りかかつた。近々私の小説集が、この書肆から出版される。その印税の前借が出来るやうに、一つ骨を折つて見てはくれまいか。――これがその用談の要点であつた。 「そりや出来ない事もないが、――しかし温泉へ行くなぞは贅沢だな。僕はまだ臍の緒切つて以来、旅行らしい旅行はした事がない。」  田崎は「朝日」へ火をつけると、そ...
底本:「芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1971(昭和46)年10月5日初版第5刷発行 入力校正:j.utiyama 1999年2月15日公開 2003年10月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "002322", "作品名": "塵労", "作品名読み": "じんろう", "ソート用読み": "しんろう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-15T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card2322.html...
一  高天原の国も春になった。  今は四方の山々を見渡しても、雪の残っている峰は一つもなかった。牛馬の遊んでいる草原は一面に仄かな緑をなすって、その裾を流れて行く天の安河の水の光も、いつか何となく人懐しい暖みを湛えているようであった。ましてその河下にある部落には、もう燕も帰って来れば、女たちが瓶を頭に載せて、水を汲みに行く噴き井の椿も、とうに点々と白い花を濡れ石の上に落していた。――  そう云う長閑な春の日の午後、天の安河の河原には大勢の若者が集まって、余念もなく力競べに耽っていた。  始、彼等は手ん手に弓矢を執って、頭上の大空へ矢を飛ばせた。彼等の弓の林の中からは、勇ましい弦の鳴る音が風のように起ったり止んだりした。そうしてその...
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「大阪毎日新聞 夕刊」    1920(大正9)年3月~6月 入力:j.utiyama 校正:湯地光弘 1999年8月27日公開 2012年3月17日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000153", "作品名": "素戔嗚尊", "作品名読み": "すさのおのみこと", "ソート用読み": "すさのおのみこと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大阪毎日新聞 夕刊」1920(大正9)年3月~6月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-08-27T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aoz...
「浅草の永住町に、信行寺と云う寺がありますが、――いえ、大きな寺じゃありません。ただ日朗上人の御木像があるとか云う、相応に由緒のある寺だそうです。その寺の門前に、明治二十二年の秋、男の子が一人捨ててありました。それがまた生れ年は勿論、名前を書いた紙もついていない。――何でも古い黄八丈の一つ身にくるんだまま、緒の切れた女の草履を枕に、捨ててあったと云う事です。 「当時信行寺の住職は、田村日錚と云う老人でしたが、ちょうど朝の御勤めをしていると、これも好い年をした門番が、捨児のあった事を知らせに来たそうです。すると仏前に向っていた和尚は、ほとんど門番の方も振り返らずに、「そうか。ではこちらへ抱いて来るが好い。」と、さも事もなげに答えました...
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「新潮」    1920(大正9)年7月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2012年3月22日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作ら...
{ "作品ID": "000154", "作品名": "捨児", "作品名読み": "すてご", "ソート用読み": "すてこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1920(大正9)年7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879...
        × すべて背景を用いない。宦官が二人話しながら出て来る。  ――今月も生み月になっている妃が六人いるのですからね。身重になっているのを勘定したら何十人いるかわかりませんよ。  ――それは皆、相手がわからないのですか。  ――一人もわからないのです。一体妃たちは私たちよりほかに男の足ぶみの出来ない後宮にいるのですからそんな事の出来る訣はないのですがね。それでも月々子を生む妃があるのだから驚きます。  ――誰か忍んで来る男があるのじゃありませんか。  ――私も始めはそう思ったのです。所がいくら番の兵士の数をふやしても、妃たちの子を生むのは止りません。  ――妃たちに訊いてもわかりませんか。  ――それが妙なのです。...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:野口英司 1998年3月10日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000142", "作品名": "青年と死", "作品名読み": "せいねんとし", "ソート用読み": "せいねんとし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1914(大正3)年9月", "分類番号": "NDC 912", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-03-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/car...
 中央美術社の展覧会へ行つた。  行つて見ると三つの室に、七十何点かの画が並んでゐる。それが皆日本画である。しかし唯の日本画ぢやない。いづれも経営惨憺の余になつた、西洋画のやうな日本画である。まづ第一に絹や紙へ、日本絵具をなすりつけて、よくこれ程油絵じみた効果を与へる事が出来たものだと、その点に聊敬意を表した。  そこで素人考へに考へて見ると、かう云ふ画を描く以上、かう云ふ画の作者には、自然がかう云ふ風に見えるのに違ひない。逆に云へばかう云ふ風に自然が見えればこそ、かう云ふ画が此処に出来上つたのだから、一応は至極御尤もである。が、素人はかう云ふ画を見ると、何故これらの画の作家は、絵具皿の代りにパレツトを、紙や絹の代りにカンヴアスを用...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003756", "作品名": "西洋画のやうな日本画", "作品名読み": "せいようがのようなにほんが", "ソート用読み": "せいようかのようなにほんか", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 721", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/...
 この「仙人」は琵琶湖に近いO町の裁判官を勤めてゐた。彼の道楽は何よりも先に古い瓢箪を集めることだつた。従つて彼の借りてゐた家には二階の戸棚の中は勿論、柱や鴨居に打つた釘にも瓢箪が幾つもぶら下つてゐた。  三年ばかりたつた後、この「仙人」はO町からH市へ転任することになつた。家具家財を運ぶのは勿論彼には何でもなかつた。が、彼是二百余りの瓢箪を運ぶことだけはどうすることも出来なかつた。 「汽車に積んでも、馬車に積んでも、無事には着かないのに違ひない。」  この仙人はいろいろ考へた揚句、とうとう瓢箪を皆括り合はせ、それを琵琶湖の上へ浮かせて舟の代りにすることにした。(その又瓢箪舟の中心になつたのはやはり彼の「掘り出して来た」遊行柳の根つ...
底本:「芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1971(昭和46)年10月5日初版第5刷発行 入力校正:j.utiyama 1999年2月15日公開 2003年10月20日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "002325", "作品名": "仙人", "作品名読み": "せんにん", "ソート用読み": "せんにん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-15T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card2325.html...
 皆さん。  私は今大阪にいます、ですから大阪の話をしましょう。  昔、大阪の町へ奉公に来た男がありました。名は何と云ったかわかりません。ただ飯炊奉公に来た男ですから、権助とだけ伝わっています。  権助は口入れ屋の暖簾をくぐると、煙管を啣えていた番頭に、こう口の世話を頼みました。 「番頭さん。私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」  番頭は呆気にとられたように、しばらくは口も利かずにいました。 「番頭さん。聞えませんか? 私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」 「まことに御気の毒様ですが、――」  番頭はやっといつもの通り、煙草をすぱすぱ吸い始めました。 「手前の店ではまだ一度も、仙人...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000144", "作品名": "仙人", "作品名読み": "せんにん", "ソート用読み": "せんにん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "1922(大正11)年", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/ca...
          上  いつごろの話だか、わからない。北支那の市から市を渡って歩く野天の見世物師に、李小二と云う男があった。鼠に芝居をさせるのを商売にしている男である。鼠を入れて置く嚢が一つ、衣装や仮面をしまって置く笥が一つ、それから、舞台の役をする小さな屋台のような物が一つ――そのほかには、何も持っていない。  天気がいいと、四つ辻の人通りの多い所に立って、まず、その屋台のような物を肩へのせる、それから、鼓板を叩いて、人よせに、謡を唱う。物見高い街中の事だから、大人でも子供でも、それを聞いて、足を止めない者はほとんどない。さて、まわりに人の墻が出来ると、李は嚢の中から鼠を一匹出して、それに衣装を着せたり、仮面をかぶらせたりして...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月6日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000143", "作品名": "仙人", "作品名読み": "せんにん", "ソート用読み": "せんにん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1916(大正5)年8月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000...
 離れで電話をかけて、皺くちゃになったフロックの袖を気にしながら、玄関へ来ると、誰もいない。客間をのぞいたら、奥さんが誰だか黒の紋付を着た人と話していた。が、そこと書斎との堺には、さっきまで柩の後ろに立ててあった、白い屏風が立っている。どうしたのかと思って、書斎の方へ行くと、入口の所に和辻さんや何かが二、三人かたまっていた。中にももちろん大ぜいいる。ちょうど皆が、先生の死顔に、最後の別れを惜んでいる時だったのである。  僕は、岡田君のあとについて、自分の番が来るのを待っていた。もう明るくなったガラス戸の外には、霜よけの藁を着た芭蕉が、何本も軒近くならんでいる。書斎でお通夜をしていると、いつもこの芭蕉がいちばん早く、うす暗い中からうき...
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月12日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000150", "作品名": "葬儀記", "作品名読み": "そうぎき", "ソート用読み": "そうきき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1917(大正6)年3月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-12T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00...
 僕に小説をかけと云ふのかね。書けるのなら、とうに書いてゐるさ。が、書けない。遺憾ながら、職業に逐はれてペンをとる暇がない。そこで、人に話す、その人が、それを小説に書く。僕が材料を提供した小説が、これで十や二十はあるだらう。勿論、有名なる作家の作品でね。唯、君に注意して置きたいのは、僕の提供する材料が、大部分は、僕の創作だと云ふ事だよ。勿論、これは、今まで、人に話した事はない。さう云ふと、誰も、僕の話を聞いて、小説にする奴がないからね。僕は、何時でも、小説らしい事実を想像でつくり上げて、それを僕の友だちの小説家に、ほんたうらしく話してやる。すると、それが旬日ならずして、小説になる。自分が小説を書くのも、同じ事さ。唯、技巧が、多くの場...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003799", "作品名": "創作", "作品名読み": "そうさく", "ソート用読み": "そうさく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3799.html...
 大学生の中村は薄い春のオヴァ・コオトの下に彼自身の体温を感じながら、仄暗い石の階段を博物館の二階へ登っていった。階段を登りつめた左にあるのは爬虫類の標本室である。中村はそこへはいる前に、ちょっと金の腕時計を眺めた。腕時計の針は幸いにもまだ二時になっていない。存外遅れずにすんだものだ、――中村はこう思ううちにも、ほっとすると言うよりは損をした気もちに近いものを感じた。  爬虫類の標本室はひっそりしている。看守さえ今日は歩いていない。その中にただ薄ら寒い防虫剤の臭いばかり漂っている。中村は室内を見渡した後、深呼吸をするように体を伸ばした。それから大きい硝子戸棚の中に太い枯れ木をまいている南洋の大蛇の前に立った。この爬虫類の標本室はちょ...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:奥西久美 1998年12月11日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000152", "作品名": "早春", "作品名読み": "そうしゅん", "ソート用読み": "そうしゆん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「東京日日新聞」1925(大正14)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/car...
 夜寒の細い往来を爪先上りに上つて行くと、古ぼけた板屋根の門の前へ出る。門には電灯がともつてゐるが、柱に掲げた標札の如きは、殆ど有無さへも判然しない。門をくぐると砂利が敷いてあつて、その又砂利の上には庭樹の落葉が紛々として乱れてゐる。  砂利と落葉とを踏んで玄関へ来ると、これも亦古ぼけた格子戸の外は、壁と云はず壁板と云はず、悉く蔦に蔽はれてゐる。だから案内を請はうと思つたら、まづその蔦の枯葉をがさつかせて、呼鈴の鈕を探さねばならぬ。それでもやつと呼鈴を押すと、明りのさしてゐる障子が開いて、束髪に結つた女中が一人、すぐに格子戸の掛け金を外してくれる。玄関の東側には廊下があり、その廊下の欄干の外には、冬を知らない木賊の色が一面に庭を埋め...
底本:「芥川龍之介作品集第三巻」昭和出版社    1965(昭和40)年12月20日発行 ※底本の「軒光《のきさき》」「殆《ほと》ど」「飜《ひるが》したり」はそれぞれ、「軒先《のきさき》」「殆《ほとん》ど」「飜《ひるがえ》したり」にあらためました。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月26日公開 2003年10月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000151", "作品名": "漱石山房の秋", "作品名読み": "そうせきさんぼうのあき", "ソート用読み": "そうせきさんほうのあき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大阪毎日新聞」1920(大正9)年1月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.a...
 わたしは年少のW君と、旧友のMに案内されながら、久しぶりに先生の書斎へはひつた。  書斎は此処へ建て直つた後、すつかり日当りが悪くなつた。それから支那の五羽鶴の毯も何時の間にか大分色がさめた。最後にもとの茶の間との境、更紗の唐紙のあつた所も、今は先生の写真のある仏壇に形を変へてゐた。  しかしその外は不相変である。洋書のつまつた書棚もある。「無絃琴」の額もある。先生が毎日原稿を書いた、小さい紫檀の机もある。瓦斯煖炉もある。屏風もある。縁の外には芭蕉もある。芭蕉の軒を払つた葉うらに、大きい花さへ腐らせてゐる。銅印もある。瀬戸の火鉢もある。天井には鼠の食ひ破つた穴も、……  わたしは天井を見上げながら、独り言のやうにかう云つた。 「天...
底本:「芥川龍之介作品集第三巻」昭和出版社    1965(昭和40)年12月20日発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月26日公開 2003年10月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "002321", "作品名": "漱石山房の冬", "作品名読み": "そうせきさんぼうのふゆ", "ソート用読み": "そうせきさんほうのふゆ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1923(大正12)年1月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www....
 日本のやうに機械の利用出来ぬ処では十分な事は出来ないでせうが、兎に角もつと美しい装幀の本が出て好いと思ひます。装幀者、印刷工、出版書肆に人を得れば、必しも通常の装幀費以上に多分の金を使はずとも、現在行はれてゐる装幀よりもずつと美しい装幀が出来る筈です。小生はその点では装幀者に小穴隆一君を得てゐる事を頗る幸福に思つてゐるものです。右とりあへず御返事まで。
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "004301", "作品名": "装幀に就いての私の意見", "作品名読み": "そうていについてのわたしのいけん", "ソート用読み": "そうていについてのわたしのいけん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora...
     1 再びこの人を見よ  クリストは「万人の鏡」である。「万人の鏡」と云ふ意味は万人のクリストに傚へと云ふのではない。たつた一人のクリストの中に万人の彼等自身を発見するからである。わたしはわたしのクリストを描き、雑誌の締め切日の迫つた為にペンを抛たなければならなかつた。今は多少の閑のある為にもう一度わたしのクリストを描き加へたいと思つてゐる。誰もわたしの書いたものなどに、――殊にクリストを描いたものなどに興味を感ずるものはないであらう。しかしわたしは四福音書の中にまざまざとわたしに呼びかけてゐるクリストの姿を感じてゐる。わたしのクリストを描き加へるのもわたし自身にはやめることは出来ない。      2 彼の伝記作者  ...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年6月1日公開 2004年3月11日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000191", "作品名": "続西方の人", "作品名読み": "ぞくさいほうのひと", "ソート用読み": "そくさいほうのひと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1927(昭和2)年9月", "分類番号": "NDC 190 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-06-04T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora...
     一 夏目先生の書  僕にも時々夏目先生の書を鑑定してくれろと言ふ人がある。が、僕の眼光ではどうも判然とは鑑定出来ない、唯まつ赤な贋せものだけはおのづから正体を現はしてくれる。僕は近頃その贋せものの中に決して贋にものとは思はれぬ一本の扇に遭遇した。成程この扇に書いてある句は漱石と言ふ名はついてゐても、確かに夏目先生の書いたものではない。しかし又句がらや書体から見れば、夏目先生の贋せものを作る為に書いたのではないことも確かである。この漱石とは何ものであらうか? 太白堂三世村田桃鄰も始めの名はやはり漱石である。けれども僕の見た扇はさほど古いものとも思はれない。僕はこの贋せものならざるに贋せものと呼ばれる扇の筆者を如何にも気の毒...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003746", "作品名": "続澄江堂雑記", "作品名読み": "ぞくちょうこうどうざっき", "ソート用読み": "そくちようこうとうさつき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/...
     一 人  僕は芭蕉の漢語にも新しい命を吹き込んだと書いてゐる。「蟻は六本の足を持つ」と云ふ文章は或は正硬であるかも知れない。しかし芭蕉の俳諧は度たびこの翻訳に近い冒険に功を奏してゐるのである。日本の文芸では少くとも「光は常に西方から来てゐた。」芭蕉も亦やはりこの例に洩れない。芭蕉の俳諧は当代の人々には如何に所謂モダアンだつたであらう。 ひやひやと壁をふまへて昼寝かな 「壁をふまへて」と云ふ成語は漢語から奪つて来たものである。「踏壁眠」と云ふ成語を用ひた漢語は勿論少くないことであらう。僕は室生犀星君と一しよにこの芭蕉の近代的趣味(当代の)を一世を風靡した所以に数へてゐる。が、詩人芭蕉は又一面には「世渡り」にも長じてゐた...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月14日公開 2004年3月11日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000189", "作品名": "続芭蕉雑記", "作品名読み": "ぞくばしょうざっき", "ソート用読み": "そくはしようさつき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文藝春秋」1927(昭和2)年8月", "分類番号": "NDC 911", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-14T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.g...
     一 「死者生者」 「文章倶楽部」が大正時代の作品中、諸家の記憶に残つたものを尋ねた時、僕も返事をしようと思つてゐるうちについその機会を失つてしまつた。僕の記憶に残つてゐるものはまづ正宗白鳥氏の「死者生者」である。これは僕の「芋粥」と同じ月に発表された為、特に深い印象を残した。「芋粥」は「死者生者」ほど完成してゐない。唯幾分か新しかつただけである。が、「死者生者」は不評判だつた。「芋粥」は――「芋粥」の不評判だつたのは吹聴せずとも善い。「読後感とでも云ふのかな。さう云ふものの深い短篇だね。」――僕は当時久米正雄君の「死者生者」を読んだ後、かう言つたことを覚えてゐる。が、「文章倶楽部」の問に応じた諸家は誰も「死者生者」を挙げ...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月2日公開 2004年3月11日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000190", "作品名": "続文芸的な、余りに文芸的な", "作品名読み": "ぞくぶんげいてきな、あまりにぶんげいてきな", "ソート用読み": "そくふんけいてきなあまりにふんけいてきな", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文藝春秋」1927(昭和2)年7月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-02T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図...
     一 放屁  アンドレエフに百姓が鼻糞をほじる描写がある。フランスに婆さんが小便をする描写がある。しかし屁をする描写のある小説にはまだ一度も出あつたことはない。  出あつたことのないといふのは、西洋の小説にはと云ふ意味である。日本の小説にはない訣ではない。その一つは青木健作氏の何とかいふ女工の小説である。駈落ちをした女工が二人、干藁か何かの中に野宿する。夜明に二人とも目がさめる。一人がぷうとおならをする。もう一人がくすくす笑ひ出す――たしかそんな筋だつたと思ふ。その女工の屁をする描写は予の記憶に誤りがなければ、甚だ上品に出来上つてゐた。予は此の一段を読んだ為に、今日もなほ青木氏の手腕に敬意を感じてゐる位なものである。  も...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003744", "作品名": "続野人生計事", "作品名読み": "ぞくやじんせいけいごと", "ソート用読み": "そくやしんせいけいこと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00...
     一  僕の二十六歳の時なりしと覚ゆ。大学院学生となりをりしが、当時東京に住せざりしため、退学届を出す期限に遅れ、期限後数日を経て事務所に退学届を出したりしに、事務の人は規則を厳守して受けつけず「既に期限に遅れし故、三十円の金を収めよ」といふ。大正五六年の三十円は大金なり。僕はこの大金を出し難き事情ありしが故に「然らばやむを得ず除名処分を受くべし」といへり。事務の人は僕の将来を気づかひ「君にして除名処分を受けん乎、今後の就職口を如何せん」といひしが、畢に除名処分を受くることとなれり。  僕の同級の哲学科の学生、僕の為に感激して曰、「君もシエリングの如く除名処分を受けしか」と! シエリングも亦僕の如く三十円の金を出し渋り...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003793", "作品名": "その頃の赤門生活", "作品名読み": "そのころのあかもんせいかつ", "ソート用読み": "そのころのあかもんせいかつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/ca...
     一 お宗さん  お宗さんは髪の毛の薄いためにどこへも縁づかない覚悟をしてゐた。が、髪の毛の薄いことはそれ自身お宗さんには愉快ではなかつた。お宗さんは地肌の透いた頭へいろいろの毛生え薬をなすつたりした。 「どれも広告ほどのことはないんですよ。」  かういふお宗さんも声だけは善かつた。そこで賃仕事の片手間に一中節の稽古をし、もし上達するものとすれば師匠になるのも善いと思ひ出した。しかし一中節はむづかしかつた。のみならず酒癖の悪い師匠は、時々お宗さんをつかまへては小言以上の小言を言つたりした。 「お前なんどは肥たご桶を叩いて甚句でもうたつてお出でなさりや善いのに。」  師匠は酒の醒めてゐる時には決してお宗さんにも粗略ではなかつ...
底本:「芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1971(昭和46)年10月5日初版第5刷発行 入力:j.utiyama 校正:j.utiyama 1999年2月15日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000157", "作品名": "素描三題", "作品名読み": "そびょうさんだい", "ソート用読み": "そひようさんたい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-15T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/car...
     一 大震雑記       一  大正十二年八月、僕は一游亭と鎌倉へ行き、平野屋別荘の客となつた。僕等の座敷の軒先はずつと藤棚になつてゐる。その又藤棚の葉の間にはちらほら紫の花が見えた。八月の藤の花は年代記ものである。そればかりではない。後架の窓から裏庭を見ると、八重の山吹も花をつけてゐる。   山吹を指すや日向の撞木杖    一游亭    (註に曰、一游亭は撞木杖をついてゐる。)  その上又珍らしいことは小町園の庭の池に菖蒲も蓮と咲き競つてゐる。   葉を枯れて蓮と咲ける花あやめ  一游亭  藤、山吹、菖蒲と数へてくると、どうもこれは唯事ではない。「自然」に発狂の気味のあるのは疑ひ難い事実である。僕は爾来人の顔さへ見れ...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003762", "作品名": "大正十二年九月一日の大震に際して", "作品名読み": "たいしょうじゅうにねんくがつついたちのだいしんにさいして", "ソート用読み": "たいしようしゆうにねんくかつついたちのたいしんにさいして", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914 915", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", ...
一 本所  大導寺信輔の生まれたのは本所の回向院の近所だった。彼の記憶に残っているものに美しい町は一つもなかった。美しい家も一つもなかった。殊に彼の家のまわりは穴蔵大工だの駄菓子屋だの古道具屋だのばかりだった。それ等の家々に面した道も泥濘の絶えたことは一度もなかった。おまけに又その道の突き当りはお竹倉の大溝だった。南京藻の浮かんだ大溝はいつも悪臭を放っていた。彼は勿論こう言う町々に憂欝を感ぜずにはいられなかった。しかし又、本所以外の町々は更に彼には不快だった。しもた家の多い山の手を始め小綺麗な商店の軒を並べた、江戸伝来の下町も何か彼を圧迫した。彼は本郷や日本橋よりも寧ろ寂しい本所を――回向院を、駒止め橋を、横網を、割り下水を、榛の...
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第七卷」岩波書店    1978(昭和53)年2月22日発行 初出:「中央公論 第四十年第一号」    1925(大正14)年1月1日発行 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1998年10月11日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000032", "作品名": "大導寺信輔の半生", "作品名読み": "だいどうじしんすけのはんせい", "ソート用読み": "たいとうししんすけのはんせい", "副題": "――或精神的風景画――", "副題読み": "――あるせいしんてきふうけいが――", "原題": "", "初出": "「中央公論 第四十年第一号」1925(大正14)年1月1日", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-10-11T00:00:00", "最終更新日": "2016-...
       一 本所  大導寺信輔の生まれたのは本所の回向院の近所だつた。彼の記憶に残つてゐるものに美しい町は一つもなかつた。美しい家も一つもなかつた。殊に彼の家のまはりは穴蔵大工だの駄菓子屋だの古道具屋だのばかりだつた。それ等の家々に面した道も泥濘の絶えたことは一度もなかつた。おまけに又その道の突き当たりはお竹倉の大溝だつた。南京藻の浮かんだ大溝はいつも悪臭を放つてゐた。彼は勿論かう言ふ町々に憂鬱を感ぜずにはゐられなかつた。しかし又、本所以外の町々は更に彼には不快だつた。しもた家の多い山の手を始め小綺麗な商店の軒を並べた、江戸伝来の下町も何か彼を圧迫した。彼は本郷や日本橋よりも寧ろ寂しい本所を――回向院を、駒止め橋を、横網を、...
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 底本の親本:「中央公論 第四〇年第一号」    1925(大正14)年1月1日 初出:「中央公論 第四〇年第一号」    1925(大正14)年1月1日 入力:五十嵐仁 校正:noriko saito 2009年4月21日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "046672", "作品名": "大導寺信輔の半生", "作品名読み": "だいどうじしんすけのはんせい", "ソート用読み": "たいとうししんすけのはんせい", "副題": "―或精神的風景画―", "副題読み": "―あるせいしんてきふうけいが―", "原題": "", "初出": "「中央公論」1925(大正14)年1月1日", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2009-05-04T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:...
 この手紙は印度のダアジリンのラアマ・チャブズン氏へ出す手紙の中に封入し、氏から日本へ送って貰うはずである。無事に君の手へ渡るかどうか、多少の心配もない訣ではない。しかし万一渡らなかったにしろ、君は格別僕の手紙を予想しているとも思われないからその点だけは甚だ安心している。が、もしこの手紙を受け取ったとすれば、君は必ず僕の運命に一驚を喫せずにはいられないであろう。第一に僕はチベットに住んでいる。第二に僕は支那人になっている。第三に僕は三人の夫と一人の妻を共有している。  この前君へ手紙を出したのはダアジリンに住んでいた頃である。僕はもうあの頃から支那人にだけはなりすましていた。元来天下に国籍くらい、面倒臭いお荷物はない。ただ支那と云う...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000033", "作品名": "第四の夫から", "作品名読み": "だいよんのおっとから", "ソート用読み": "たいよんのおつとから", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1924(大正13)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.ao...
        ◇  滝田君に初めて会ったのは夏目先生のお宅だったであろう。が、生憎その時のことは何も記憶に残っていない。  滝田君の初めて僕の家へ来たのは僕の大学を出た年の秋、――僕の初めて「中央公論」へ「手巾」という小説を書いた時である。滝田君は僕にその小説のことを「ちょっと皮肉なものですな」といった。  それから滝田君は二三ヵ月おきに僕の家へ来るようになった。         ◇  或年の春、僕は原稿の出来ぬことに少からず屈託していた。滝田君はその時僕のために谷崎潤一郎君の原稿を示し、(それは実際苦心の痕の歴々と見える原稿だった。)大いに僕を激励した。僕はこのために勇気を得てどうにかこうにか書き上げる事が出来た。  僕の方から...
底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社    1995(平成7)年1月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店    1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月初版発行 入力:向井樹里 校正:門田裕志 2005年2月20日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043382", "作品名": "滝田哲太郎君", "作品名読み": "たきたてつたろうくん", "ソート用読み": "たきたてつたろうくん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2005-03-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/0008...
 滝田君はいつも肥っていた。のみならずいつも赤い顔をしていた。夏目先生の滝田君を金太郎と呼ばれたのも当らぬことはない。しかしあの目の細い所などは寧ろ菊慈童にそっくりだった。  僕は大学に在学中、滝田君に初対面の挨拶をしてから、ざっと十年ばかりの間可也親密につき合っていた。滝田君に鮭鮓の御馳走になり、烈しい胃痙攣を起したこともある。又雲坪を論じ合った後、蘭竹を一幅貰ったこともある。実際あらゆる編輯者中、僕の最も懇意にしたのは正に滝田君に違いなかった。しかし僕はどういう訳か、未だ嘗て滝田君とお茶屋へ行ったことは一度もなかった。滝田君は恐らくは僕などは話せぬ人間と思っていたのであろう。  滝田君は熱心な編輯者だった。殊に作家を煽動して小説...
底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社    1995(平成7)年1月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店    1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月発行 入力:向井樹里 校正:砂場清隆 2007年2月12日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043383", "作品名": "滝田哲太郎氏", "作品名読み": "たきたてつたろうし", "ソート用読み": "たきたてつたろうし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-03-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879...
 現代はせち辛い世の中である。このせち辛い世の中に、龍村平蔵さんの如く一本二千円も三千円もする女帯を織つてゐると云ふ事は或は時代の大勢に風馬牛だと云ふ非難を得るかも知れない。いや、中には斯る贅沢品の為に、生産能力の費される事を憤慨する向きもありさうである。  が、その女帯が単なる女帯に止まらなかつたら――工芸品よりも寧ろ芸術品として鑑賞せらるべき性質のものだつたら、如何に現代が明日の日にも、米の飯さへ食へなくなりさうな、せち辛い世の中であるにもせよ、一概に贅沢品退治の鼓を鳴らして、龍村さんの事業と作品とを責める訳には行くまいと思ふ。この意味に於て私は、悪辣無双に切迫した時勢の手前も遠慮なく、堂々と龍村さんの女帯を天下に推称出来る事を...
底本:「芥川龍之介全集 第五巻」岩波書店    1996(平成8)年3月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "001132", "作品名": "竜村平蔵氏の芸術", "作品名読み": "たつむらへいぞうしのげいじゅつ", "ソート用読み": "たつむらへいそうしのけいしゆつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「東京日日新聞」1919(大正8)年11月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "ht...
 僕は或初夏の午後、谷崎氏と神田をひやかしに出かけた。谷崎氏はその日も黒背広に赤い襟飾りを結んでゐた。僕はこの壮大なる襟飾りに、象徴せられたるロマンティシズムを感じた。尤もこれは僕ばかりではない。往来の人も男女を問はず、僕と同じ印象を受けたのであらう。すれ違ふ度に谷崎氏の顔をじろじろ見ないものは一人もなかつた。しかし谷崎氏は何と云つてもさう云ふ事実を認めなかつた。 「ありや君を見るんだよ。そんな道行きなんぞ着てゐるから。」  僕は成程夏外套の代りに親父の道行きを借用してゐた。が、道行きは茶の湯の師匠も菩提寺の和尚も着るものである。衆俗の目を駭かすことは到底一輪の紅薔薇に似た、非凡なる襟飾りに及ぶ筈はない。けれども谷崎氏は僕のやうにロ...
底本:「芥川龍之介全集 第十巻」岩波書店    1996(平成8)年8月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 2012年5月6日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "004276", "作品名": "谷崎潤一郎氏", "作品名読み": "たにざきじゅんいちろうし", "ソート用読み": "たにさきしゆんいちろうし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/...
 たね子は夫の先輩に当るある実業家の令嬢の結婚披露式の通知を貰った時、ちょうど勤め先へ出かかった夫にこう熱心に話しかけた。 「あたしも出なければ悪いでしょうか?」 「それは悪いさ。」  夫はタイを結びながら、鏡の中のたね子に返事をした。もっともそれは箪笥の上に立てた鏡に映っていた関係上、たね子よりもむしろたね子の眉に返事をした――のに近いものだった。 「だって帝国ホテルでやるんでしょう?」 「帝国ホテル――か?」 「あら、御存知なかったの?」 「うん、……おい、チョッキ!」  たね子は急いでチョッキをとり上げ、もう一度この披露式の話をし出した。 「帝国ホテルじゃ洋食でしょう?」 「当り前なことを言っている。」 「それだからあたしは困...
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月3日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000164", "作品名": "たね子の憂鬱", "作品名読み": "たねこのゆううつ", "ソート用読み": "たねこのゆううつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1927(昭和2)年5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.j...
 煙草は、本来、日本になかつた植物である。では、何時頃、舶載されたかと云ふと、記録によつて、年代が一致しない。或は、慶長年間と書いてあつたり、或は天文年間と書いてあつたりする。が、慶長十年頃には、既に栽培が、諸方に行はれてゐたらしい。それが文禄年間になると、「きかぬものたばこの法度銭法度、玉のみこゑにげんたくの医者」と云ふ落首が出来た程、一般に喫煙が流行するやうになつた。――  そこで、この煙草は、誰の手で舶載されたかと云ふと、歴史家なら誰でも、葡萄牙人とか、西班牙人とか答へる。が、それは必ずしも唯一の答ではない。その外にまだ、もう一つ、伝説としての答が残つてゐる。それによると、煙草は、悪魔がどこからか持つて来たのださうである。さう...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:吉田亜津美 1998年9月11日公開 2004年3月11日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000163", "作品名": "煙草と悪魔", "作品名読み": "たばことあくま", "ソート用読み": "たはことあくま", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1916(大正5)年11月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-09-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp...
 この度は田端の人々を書かん。こは必ずしも交友ならず。寧ろ僕の師友なりと言ふべし。  下島勲 下島先生はお医者なり。僕の一家は常に先生の御厄介になる。又空谷山人と号し、乞食俳人井月の句を集めたる井月句集の編者なり。僕とは親子ほど違ふ年なれども、老来トルストイでも何でも読み、論戦に勇なるは敬服すべし。僕の書画を愛する心は先生に負ふ所少からず。なほ次手に吹聴すれば、先生は時々夢の中に化けものなどに追ひかけられても、逃げたことは一度もなきよし。先生の胆、恐らくは駝鳥の卵よりも大ならん乎。  香取秀真 香取先生は通称「お隣の先生」なり。先生の鋳金家にして、根岸派の歌よみたることは断る必要もあらざるべし。僕は先生と隣り住みたる為、形の美しさを...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003773", "作品名": "田端人", "作品名読み": "たばたじん", "ソート用読み": "たはたしん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3773.h...
〔八月〕二十七日  朝床の中でぐずついていたら、六時になった。何か夢を見たと思って考え出そうとしたが思いつかない。  起きて顔を洗って、にぎり飯を食って、書斎の机に向ったが、一向ものを書く気にもならない。そこで読みかけの本をよんだ。何だかへんな議論が綿々と書いてある。面倒臭くなったから、それもやめにして腹んばいになって、小説を読んだ。土左衛門になりかかった男の心もちを、多少空想的に誇張して、面白く書いてある。こいつは話せると思ったら、こないだから頭に持っている小説が、急に早く書きたくなった。  バルザックか、誰かが小説の構想をする事を「魔法の巻煙草を吸う」と形容した事がある。僕はそれから魔法の巻煙草とほんものの巻煙草とを、ちゃんぽん...
底本:「芥川龍之介全集8」ちくま文庫、筑摩書房    1989(平成元)年8月29日第1刷発行    1998(平成10)年2月17日第3刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」    1971(昭和46)年3月~11月刊行 入力:土屋隆 校正:noriko saito 2007年7月23日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "002692", "作品名": "田端日記", "作品名読み": "たばたにっき", "ソート用読み": "たはたにつき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-27T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card269...
 西洋の幽霊――西洋と云つても英米だけだが、その英米の小説に出て来る、近頃の幽霊の話でも少ししませう。少し古い所から勘定すると、英吉利には名高い「オトラントの城」を書いたウオルポオル、ラドクリツフ夫人、マテユリン(この人の「メルモス」は、バルザツクやゲエテにも影響を与へたので有名だが)、「僧」を書いて僧ルイズの渾名をとつたルイズ、スコツト、リツトン、ボツグなどがあるし、亜米利加にはポオやホウソオンがあるが、幽霊――或は一般に妖怪を書いた作品は今でも存外少くない。殊に欧洲の戦役以来、宗教的感情が瀰漫すると同時に、いろいろ戦争に関係した幽霊の話も出て来たやうです。戦争文学に怪談が多いなどは、面白い現象に違ひないでせう。何しろ仏蘭西のやう...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003759", "作品名": "近頃の幽霊", "作品名読み": "ちかごろのゆうれい", "ソート用読み": "ちかころのゆうれい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/...
 自分が中学の四年生だった時の話である。  その年の秋、日光から足尾へかけて、三泊の修学旅行があった。「午前六時三十分上野停車場前集合、同五十分発車……」こう云う箇条が、学校から渡す謄写版の刷物に書いてある。  当日になると自分は、碌に朝飯も食わずに家をとび出した。電車でゆけば停車場まで二十分とはかからない。――そう思いながらも、何となく心がせく。停車場の赤い柱の前に立って、電車を待っているうちも、気が気でない。  生憎、空は曇っている。方々の工場で鳴らす汽笛の音が、鼠色の水蒸気をふるわせたら、それが皆霧雨になって、降って来はしないかとも思われる。その退屈な空の下で、高架鉄道を汽車が通る。被服廠へ通う荷馬車が通る。店の戸が一つずつ開...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000030", "作品名": "父", "作品名読み": "ちち", "ソート用読み": "ちち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1916(大正5)年5月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/c...
     一 前島林右衛門  板倉修理は、病後の疲労が稍恢復すると同時に、はげしい神経衰弱に襲われた。――   肩がはる。頭痛がする。日頃好んでする書見にさえ、身がはいらない。廊下を通る人の足音とか、家中の者の話声とかが聞えただけで、すぐ注意が擾されてしまう。それがだんだん嵩じて来ると、今度は極些細な刺戟からも、絶えず神経を虐まれるような姿になった。  第一、莨盆の蒔絵などが、黒地に金の唐草を這わせていると、その細い蔓や葉がどうも気になって仕方がない。そのほか象牙の箸とか、青銅の火箸とか云う先の尖った物を見ても、やはり不安になって来る。しまいには、畳の縁の交叉した角や、天井の四隅までが、丁度刃物を見つめている時のような切ない神経の...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月6日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティ...
{ "作品ID": "000173", "作品名": "忠義", "作品名読み": "ちゅうぎ", "ソート用読み": "ちゆうき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「黒潮」1917(大正6)年3月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/0008...
       一 「おばば、猪熊のおばば。」  朱雀綾小路の辻で、じみな紺の水干に揉烏帽子をかけた、二十ばかりの、醜い、片目の侍が、平骨の扇を上げて、通りかかりの老婆を呼びとめた。――  むし暑く夏霞のたなびいた空が、息をひそめたように、家々の上をおおいかぶさった、七月のある日ざかりである。男の足をとめた辻には、枝のまばらな、ひょろ長い葉柳が一本、このごろはやる疫病にでもかかったかと思う姿で、形ばかりの影を地の上に落としているが、ここにさえ、その日にかわいた葉を動かそうという風はない。まして、日の光に照りつけられた大路には、あまりの暑さにめげたせいか、人通りも今はひとしきりとだえて、たださっき通った牛車のわだちが長々とうねっている...
底本:「羅生門・鼻・芋粥・偸盗」岩波文庫、岩波書店    1960(昭和35)年11月25日第1刷発行    1993(平成5)年9月20日第46刷発行 底本の親本:「芥川竜之介全集」岩波書店    1954(昭和29)年~1955(昭和30)年 初出:「中央公論」    1917(大正6)年4、7月 入力:福田芽久美 校正:野口英司 1998年10月4日公開 2007年9月24日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000031", "作品名": "偸盗", "作品名読み": "ちゅうとう", "ソート用読み": "ちゆうとう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1917(大正6)年4、7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-10-04T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/card...
     一 大雅の画  僕は日頃大雅の画を欲しいと思つてゐる。しかしそれは大雅でさへあれば、金を惜まないと云ふのではない。まあせいぜい五十円位の大雅を一幅得たいのである。  大雅は偉い画描きである。昔、高久靄崖は一文無しの窮境にあつても、一幅の大雅だけは手離さなかつた。ああ云ふ英霊漢の筆に成つた画は、何百円と雖も高い事はない。それを五十円に値切りたいのは、僕に余財のない悲しさである。しかし大雅の画品を思へば、たとへば五百万円を投ずるのも、僕のやうに五十円を投ずるのも、安いと云ふ点では同じかも知れぬ。芸術品の価値も小切手や紙幣に換算出来ると考へるのは、度し難い俗物ばかりだからである。  Samuel Butler の書いた物による...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003745", "作品名": "澄江堂雑記", "作品名読み": "ちょうこうどうざっき", "ソート用読み": "ちようこうとうさつき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00087...
前置き  これは三年前支那に遊び、長江を溯った時の紀行である。こう云う目まぐるしい世の中に、三年前の紀行なぞは誰にも興味を与えないかも知れない。が、人生を行旅とすれば、畢竟あらゆる追憶は数年前の紀行である。私の文章の愛読者諸君は「堀川保吉」に対するように、この「長江」の一篇にもちらりと目をやってくれないであろうか?  私は長江を溯った時、絶えず日本を懐しがっていた。しかし今は日本に、――炎暑の甚しい東京に汪洋たる長江を懐しがっている。長江を? ――いや、長江ばかりではない、蕪湖を、漢口を、廬山の松を、洞庭の波を懐しがっている。私の文章の愛読者諸君は「堀川保吉」に対するように、この私の追憶癖にもちらりと目をやってはくれないであろうか...
底本:「上海游記・江南游記」講談社文芸文庫、講談社    2001(平成13)年10月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店    1996(平成8)年9月9日発行 ※()内の編者による注記は省略しました。 入力:門田裕志 校正:岡山勝美 2015年2月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "051216", "作品名": "長江游記", "作品名読み": "ちょうこうゆうき", "ソート用読み": "ちようこうゆうき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 915", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2015-03-31T00:00:00", "最終更新日": "2015-02-28T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/car...
       一  中学の三年の時だった。三学期の試験をすませたあとで、休暇中読む本を買いつけの本屋から、何冊だか取りよせたことがある。夏目先生の虞美人草なども、その時その中に交っていたかと思う。が、中でもいちばん大部だったのは、樗牛全集の五冊だった。  自分はそのころから非常な濫読家だったから、一週間の休暇の間に、それらの本を手に任せて読み飛ばした。もちろん樗牛全集の一巻、二巻、四巻などは、読みは読んでもむずかしくって、よく理窟がのみこめなかったのにちがいない。が、三巻や五巻などは、相当の興味をもって、しまいまで読み通すことができたように記憶する。  その時、はじめて樗牛に接した自分は、あの名文からはなはだよくない印象を受けた。...
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月12日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000172", "作品名": "樗牛の事", "作品名読み": "ちょぎゅうのこと", "ソート用読み": "ちよきゆうのこと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「人文」1919(大正8)年1月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-12T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/...
     一 埃  僕の記憶の始まりは数え年の四つの時のことである。と言ってもたいした記憶ではない。ただ広さんという大工が一人、梯子か何かに乗ったまま玄能で天井を叩いている、天井からはぱっぱっと埃が出る――そんな光景を覚えているのである。  これは江戸の昔から祖父や父の住んでいた古家を毀した時のことである。僕は数え年の四つの秋、新しい家に住むようになった。したがって古家を毀したのは遅くもその年の春だったであろう。      二 位牌  僕の家の仏壇には祖父母の位牌や叔父の位牌の前に大きい位牌が一つあった。それは天保何年かに没した曾祖父母の位牌だった。僕はもの心のついた時から、この金箔の黒ずんだ位牌に恐怖に近いものを感じていた。...
底本:「河童・玄鶴山房」角川文庫、角川書店    1969(昭和44)年11月30日改版初版発行    1979(昭和54)年9月20日改版14版発行 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:一色伸子 校正:小林繁雄 2001年1月29日公開 2004年3月16日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "001141", "作品名": "追憶", "作品名読み": "ついおく", "ソート用読み": "ついおく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文芸春秋」1926(大正15)年4月~1927(昭和2)年2月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2001-01-29T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora....
 恒藤恭は一高時代の親友なり。寄宿舎も同じ中寮の三番室に一年の間居りし事あり。当時の恒藤もまだ法科にはいらず。一部の乙組即ち英文科の生徒なりき。  恒藤は朝六時頃起き、午の休みには昼寝をし、夜は十一時の消灯前に、ちゃんと歯を磨いた後、床にはいるを常としたり。その生活の規則的なる事、エマヌエル・カントの再来か時計の振子かと思う程なりき。当時僕等のクラスには、久米正雄の如き或は菊池寛の如き、天縦の材少なからず、是等の豪傑は恒藤と違い、酒を飲んだりストオムをやったり、天馬の空を行くが如き、或は乗合自動車の町を走るが如き、放縦なる生活を喜びしものなり。故に恒藤の生活は是等の豪傑の生活に対し、規則的なるよりも一層規則的に見えしなるべし。僕は恒...
底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社    1995(平成7)年1月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店    1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月初版発行 入力:向井樹里 校正:門田裕志 2005年2月20日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043385", "作品名": "恒藤恭氏", "作品名読み": "つねとうきょうし", "ソート用読み": "つねとうきようし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2005-03-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/car...
 僕は今この温泉宿に滞在しています。避暑する気もちもないではありません。しかしまだそのほかにゆっくり読んだり書いたりしたい気もちもあることは確かです。ここは旅行案内の広告によれば、神経衰弱に善いとか云うことです。そのせいか狂人も二人ばかりいます。一人は二十七八の女です。この女は何も口を利かずに手風琴ばかり弾いています。が、身なりはちゃんとしていますから、どこか相当な家の奥さんでしょう。のみならず二三度見かけたところではどこかちょっと混血児じみた、輪廓の正しい顔をしています。もう一人の狂人は赤あかと額の禿げ上った四十前後の男です。この男は確か左の腕に松葉の入れ墨をしているところを見ると、まだ狂人にならない前には何か意気な商売でもしてい...
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月3日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000166", "作品名": "手紙", "作品名読み": "てがみ", "ソート用読み": "てかみ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card166.html", ...
 室生犀星はちゃんと出来上った人である。僕は実は近頃まであの位室生犀星なりに出来上っていようとは思わなかった。出来上った人と云う意味はまあ簡単に埒を明ければ、一家を成した人と思えば好い。或は何も他に待たずに生きられる人と思えば好い。室生は大袈裟に形容すれば、日星河岳前にあり、室生犀星茲にありと傍若無人に尻を据えている。あの尻の据えかたは必しも容易に出来るものではない。ざっと周囲を見渡した所、僕の知っている連中でも大抵は何かを恐れている。勿論外見は恐れてはいない。内見も――内見と言う言葉はないかも知れない。では夫子自身にさえ己は無畏だぞと言い聞かせている。しかしやはり肚の底には多少は何かを恐れている。この恐怖の有無になると、室生犀星は...
底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社    1995(平成7)年1月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店    1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月発行 入力:向井樹里 校正:砂場清隆 2007年2月12日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043386", "作品名": "出来上った人", "作品名読み": "できあがったひと", "ソート用読み": "てきあかつたひと", "副題": "――室生犀星氏――", "副題読み": "――むろうさいせいし――", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-03-13T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora...
 これは孝子伝吉の父の仇を打った話である。  伝吉は信州水内郡笹山村の百姓の一人息子である。伝吉の父は伝三と云い、「酒を好み、博奕を好み、喧嘩口論を好」んだと云うから、まず一村の人々にはならずもの扱いをされていたらしい。(註一)母は伝吉を産んだ翌年、病死してしまったと云うものもある。あるいはまた情夫の出来たために出奔してしまったと云うものもある。(註二)しかし事実はどちらにしろ、この話の始まる頃にはいなくなっていたのに違いない。  この話の始まりは伝吉のやっと十二歳になった(一説によれば十五歳)天保七年の春である。伝吉はある日ふとしたことから、「越後浪人服部平四郎と云えるものの怒を買い、あわや斬りも捨てられん」とした。平四郎は当時文...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月8日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000034", "作品名": "伝吉の敵打ち", "作品名読み": "でんきちのかたきうち", "ソート用読み": "てんきちのかたきうち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1924(大正13)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.ao...
一  僕の母は狂人だった。僕は一度も僕の母に母らしい親しみを感じたことはない。僕の母は髪を櫛巻きにし、いつも芝の実家にたった一人坐りながら、長煙管ですぱすぱ煙草を吸っている。顔も小さければ体も小さい。その又顔はどう云う訳か、少しも生気のない灰色をしている。僕はいつか西廂記を読み、土口気泥臭味の語に出合った時に忽ち僕の母の顔を、――痩せ細った横顔を思い出した。  こう云う僕は僕の母に全然面倒を見て貰ったことはない。何でも一度僕の養母とわざわざ二階へ挨拶に行ったら、いきなり頭を長煙管で打たれたことを覚えている。しかし大体僕の母は如何にももの静かな狂人だった。僕や僕の姉などに画を描いてくれと迫られると、四つ折の半紙に画を描いてくれる。画...
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:「改造 第八卷第十一号」    1926(大正15)年10月1日発行 入力:j.utiyama 校正:山本奈津恵 1998年10月5日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000167", "作品名": "点鬼簿", "作品名読み": "てんきぼ", "ソート用読み": "てんきほ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造 第八卷第十一号」1926(大正15)年10月1日", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-10-05T00:00:00", "最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr....
     御降り  今日は御降りである。尤も歳事記を検べて見たら、二日は御降りと云はぬかも知れぬ。が蓬莱を飾つた二階にゐれば、やはり心もちは御降りである。下では赤ん坊が泣き続けてゐる。舌に腫物が出来たと云ふが、鵞口瘡にでもならねば好い。ぢつと炬燵に当りながら、「つづらふみ」を読んでゐても、心は何時かその泣き声にとられてゐる事が度々ある。私の家は鶉居ではない。娑婆界の苦労は御降りの今日も、遠慮なく私を悩ますのである。昔或御降りの座敷に、姉や姉の友達と、羽根をついて遊んだ事がある。その仲間には私の外にも、私より幾つか年上の、おとなしい少年が交つてゐた。彼は其処にゐた少女たちと、悉仲好しの間がらだつた。だから羽根をつき落したものは、羽子...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003740", "作品名": "点心", "作品名読み": "てんしん", "ソート用読み": "てんしん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3740.html...
     鏡  自分は無暗に書物ばかり積んである書斎の中に蹲つて、寂しい春の松の内を甚だらしなく消光してゐた。本をひろげて見たり、好い加減な文章を書いて見たり、それにも飽きると出たらめな俳句を作つて見たり――要するにまあ太平の逸民らしく、のんべんだらりと日を暮してゐたのである。すると或日久しぶりに、よその奥さんが子供をつれて、年始旁々遊びに来た。この奥さんは昔から若くつてゐたいと云ふ事を、口癖のやうにしてゐる人だつた。だからつれてゐる女の子がもう五つになると云ふにも関らず、まだ娘の時分の美しさを昨日のやうに保存してゐた。  その日自分の書斎には、梅の花が活けてあつた。そこで我々は梅の話をした。が、千枝ちやんと云ふその女の子は、この...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003807", "作品名": "東京小品", "作品名読み": "とうきょうしょうひん", "ソート用読み": "とうきようしようひん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879...
 変化の激しい都会  僕に東京の印象を話せといふのは無理である。何故といへば、或る印象を得るためには、印象するものと、印象されるものとの間に、或る新鮮さがなければならない。ところが、僕は東京に生れ、東京に育ち、東京に住んでゐる。だから、東京に対する神経は麻痺し切つてゐるといつてもいゝ。従つて、東京の印象といふやうなことは、殆んど話すことがないのである。  しかし、こゝに幸せなことは、東京は変化の激しい都会である。例へばつい半年ほど前には、石の擬宝珠のあつた京橋も、このごろでは、西洋風の橋に変つてゐる。そのために、東京の印象といふやうなものが、多少は話せないわけでもない。殊に、僕の如き出不精なものは、それだけ変化にも驚き易いから、幾分...
底本:「心にふるさとがある17 わが町わが村(東日本)」作品社    1998(平成10)年4月25日第1刷発行 ※ルビを新仮名遣いとする扱いは、底本通りにしました。 入力:浦山敦子 校正:門田裕志、小林繁雄 2006年1月13日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "045623", "作品名": "東京に生れて", "作品名読み": "とうきょうにうまれて", "ソート用読み": "とうきようにうまれて", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2006-02-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/0008...
問 現代の作家に就いて、比較上の問題ですが、東洋種と西洋種とに区別したら如何なものでせうか。 答 それは東洋種と西洋種とに分けられるかも知れない。けれども多少の西洋種を交へて居ないものは殆んどないと云つてもいいだらう。たとへば久保田万太郎君なぞは、純日本種の作家のやうに思はれて居るが、久保田君の小説には、プロロオグと横文字に題を書いたのがある。勿論作品そのものの中にも、多分に三田文学流の西洋種を交へて居る。先づ比較的西洋種を交へない作家と云へば、徳田秋声氏位のものだらうと思ふ。 問 葛西善蔵氏はどうですか。 答 葛西善蔵氏も、西洋種の交りは少いと思ふ。 問 それでは、東洋種の作家の作品の要素をお伺ひしたいのです。 答 それは難問だね...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003788", "作品名": "東西問答", "作品名読み": "とうざいもんどう", "ソート用読み": "とうさいもんとう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/car...
 天王寺の別当、道命阿闍梨は、ひとりそっと床をぬけ出すと、経机の前へにじりよって、その上に乗っている法華経八の巻を灯の下に繰りひろげた。  切り燈台の火は、花のような丁字をむすびながら、明く螺鈿の経机を照らしている。耳にはいるのは几帳の向うに横になっている和泉式部の寝息であろう。春の夜の曹司はただしんかんと更け渡って、そのほかには鼠の啼く声さえも聞えない。  阿闍梨は、白地の錦の縁をとった円座の上に座をしめながら、式部の眼のさめるのを憚るように、中音で静かに法華経を誦しはじめた。  これが、この男の日頃からの習慣である。身は、傅の大納言藤原道綱の子と生れて、天台座主慈恵大僧正の弟子となったが、三業も修せず、五戒も持した事はない。いや...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000135", "作品名": "道祖問答", "作品名読み": "どうそもんどう", "ソート用読み": "とうそもんとう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大阪朝日新聞夕刊」1917(大正6)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr...
     象  象よ。キツプリングは昔お前の先祖が、鰐に鼻を啣へられたものだから、未だにお前まで長い鼻をぶら下げて歩いてゐると云つた。が、おれにはどうしても、あいつの云ふ事が信用出来ない。お前の先祖は仏陀御在世の時分、きつとガンヂス河の燈心草の中で、昼寝か何かしてゐたのだ。すると河の泥に隠れてゐた、途方もなく大きな蛭が、その頃はまだ短かつた、お前の先祖の鼻の先へ、吸ひついてしまつたのに違ひない。さもなければお前の鼻が、これ程大きな蛭のやうに、伸びたり縮んだりはしないだらう。象よ。お前は印度の名門の生れだ。どうかおれの云つた通り、あのキツプリングの説などは口から出放題の大法螺だと、先祖の寃を雪ぐ為に、一度でも好いからその鼻をあげて、...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003810", "作品名": "動物園", "作品名読み": "どうぶつえん", "ソート用読み": "とうふつえん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3810...
 おれは日比谷公園を歩いてゐた。  空には薄雲が重なり合つて、地平に近い樹々の上だけ、僅にほの青い色を残してゐる。そのせゐか秋の木の間の路は、まだ夕暮が来ない内に、砂も、石も、枯草も、しつとりと濡れてゐるらしい。いや、路の右左に枝をさしかはせた篠懸にも、露に洗はれたやうな薄明りが、やはり黄色い葉の一枚毎にかすかな陰影を交へながら、懶げに漂つてゐるのである。  おれは籐の杖を小脇にして、火の消えた葉巻を啣へながら、別に何処へ行かうと云ふ当もなく、寂しい散歩を続けてゐた。  そのうそ寒い路の上には、おれ以外に誰も歩いてゐない。路をさし挾んだ篠懸も、ひつそりと黄色い葉を垂らしてゐる。仄かに霧の懸つてゐる行く手の樹々の間からは、唯、噴水のし...
底本:「芥川龍之介作品集第二巻」昭和出版社    1965(昭和40)年12月20日発行 ※平仮名の繰り返し記号に「ヾ」を用いる扱いは、底本通りとしました。 ※底本の「ほの青い色を残してゐ。」「灰」《ほの》かに」「殆《ほとんど》ど」はそれぞれ、「ほの青い色を残してゐる。」「仄《ほの》かに」「殆《ほとん》ど」にあらためました。 ※疑問点の確認にあたっては、「芥川龍之介全集 第六巻」岩波書店、1996(平成8)年4月8日発行を参照しました。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月27日公開 2003年10月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.ao...
{ "作品ID": "002369", "作品名": "東洋の秋", "作品名読み": "とうようのあき", "ソート用読み": "とうようのあき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1920(大正9)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-27T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/ca...
     一  風に靡いたマツチの炎ほど無気味にも美しい青いろはない。      二  如何に都会を愛するか?――過去の多い女を愛するやうに。      三  雪の降つた公園の枯芝は何よりも砂糖漬にそつくりである。      四  僕に中世紀を思ひ出させるのは厳めしい赤煉瓦の監獄である。若し看守さへゐなければ、馬に乗つたジアン・ダアクの飛び出すのに遇つても驚かないかも知れない。      五  或女給の言葉。――いやだわ。今夜はナイホクなんですもの。  註。ナイホクはナイフだのフオオクだのを洗ふ番に当ることである。      六  並み木に多いのは篠懸である。橡も三角楓も極めて少ない。しかし勿論派出所の巡査はこ...
底本:「芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1971(昭和46)年10月5日初版第5刷発行 入力校正:j.utiyama 1999年2月15日公開 2003年10月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "002324", "作品名": "都会で", "作品名読み": "とかいで", "ソート用読み": "とかいて", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-15T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card2324.htm...
 婦人に何ういふ書物を讀ませたらいゝかといふ事を話す前に、一體、婦人のみに讀ませるといふやうな書物があるかどうか、それを考へて見なければならない。  すると、先づ裁縫の本とか、料理の本とか、或は又育兒に關する本とかいふものがある。成る程これは、大抵の場合、婦人のみに用のある書物である。併し、婦人に何ういふ本を讀ませたらいゝかといふのは、料理とか裁縫とか育兒といふものよりも、もつと婦人の精神的要求を充たすべき書物を尋ねるのであらう。だから、この種の書物以外に、婦人向きの書物を考へて見る必要がある。  第二には、偉い婦人の傳記である。從來、婦人の讀物といへば、ジヤン・ダーク傳とか、ナイチンゲール傳とか、さういふものを推薦する人も少くない...
底本:「芥川龍之介全集 第五卷」岩波書店    1977(昭和52)年12月22日発行 底本の親本:「良婦之友 第一卷第九號」良婦之友社    1922(大正11)年9月1日発行 初出:「良婦之友 第一卷第九號」良婦之友社    1922(大正11)年9月1日発行 ※表題は底本では、「讀書《どくしよ》の態度《たいど》」となっています。 入力:友理 校正:きりんの手紙 2022年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "060859", "作品名": "読書の態度", "作品名読み": "どくしょのたいど", "ソート用読み": "とくしよのたいと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「良婦之友 第一卷第九號」良婦之友社、1922(大正11)年9月1日", "分類番号": "", "文字遣い種別": "旧字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2022-07-24T00:00:00", "最終更新日": "2022-06-26T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.a...
       一  或春の日暮です。  唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。  若者は名は杜子春といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費ひ尽して、その日の暮しにも困る位、憐な身分になつてゐるのです。  何しろその頃洛陽といへば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、往来にはまだしつきりなく、人や車が通つてゐました。門一ぱいに当つてゐる、油のやうな夕日の光の中に、老人のかぶつた紗の帽子や、土耳古の女の金の耳環や、白馬に飾つた色糸の手綱が、絶えず流れて行く容子は、まるで画のやうな美しさです。  しかし杜子春は相変らず、門の壁に身を凭せて、ぼんやり空ばかり眺めてゐました。空には、もう細...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年5月20日公開 2004年3月12日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000170", "作品名": "杜子春", "作品名読み": "とししゅん", "ソート用読み": "とししゆん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「赤い鳥」1920(大正9)年7月号", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-05-20T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/card...
一  或春の日暮です。  唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。  若者は名を杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を費い尽して、その日の暮しにも困る位、憐な身分になっているのです。  何しろその頃洛陽といえば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、往来にはまだしっきりなく、人や車が通っていました。門一ぱいに当っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗の帽子や、土耳古の女の金の耳環や、白馬に飾った色糸の手綱が、絶えず流れて行く容子は、まるで画のような美しさです。  しかし杜子春は相変らず、門の壁に身を凭せて、ぼんやり空ばかり眺めていました。空には、もう細い月が、うらう...
底本:「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社    1968(昭和43)年11月15日発行    1989(平成元)年5月30日46刷 初出:「赤い鳥」    1920(大正9)年7月号 入力:蒋龍 校正:noriko saito 2005年1月7日作成 2013年10月29日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043015", "作品名": "杜子春", "作品名読み": "とししゅん", "ソート用読み": "とししゆん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「赤い鳥」1920(大正9)年7月号", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2005-02-07T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/card...
 豊島は僕より一年前に仏文を出た先輩だから、親しく話しをするようになったのは、寧ろ最近の事である。僕が始めて豊島与志雄と云う名を知ったのは、一高の校友会雑誌に、「褪紅色の珠」と云う小品が出た時だろう。それがどう云う訳か、僕の記憶には「登志雄」として残った。その登志雄が与志雄と校正されたのは、豊島に会ってからの事だったと思う。  初めて会ったのは、第三次の新思潮を出す時に、本郷の豊国の二階で、出版元の啓成社の人たちと同人との会があった、その時の事である。一番隅の方へひっこんでいた僕の前へ、紺絣の着物を着た、大柄な、色の白い、若い人が来て坐った。眼鏡はその頃はまだかけていなかったと思うが、確には覚えていない。僕はその人と小説の話をした。...
底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社    1995(平成7)年1月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店    1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月初版発行 入力:向井樹里 校正:門田裕志 2005年2月20日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043387", "作品名": "豊島与志雄氏の事", "作品名読み": "とよしまよしおしのこと", "ソート用読み": "とよしまよしおしのこと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2005-03-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/...
 師走の或夜、父は五歳になる男の子を抱き、一しよに炬燵へはひつてゐる。  子 お父さん何かお話しをして!  父 何の話?  子 何でも。……うん、虎のお話が好いや。  父 虎の話? 虎の話は困つたな。  子 よう、虎の話をさあ。  父 虎の話と。……ぢや虎の話をして上げよう。昔、朝鮮のらつぱ卒がね、すつかりお酒に酔つ払らつて、山路にぐうぐう寝てゐたとさ。すると顔が濡れるもんだから、何かと思つて目をさますと、いつの間にか大きい虎が一匹、尻つ尾の先に水をつけてはらつぱ卒の顔を撫でてゐたとさ。  子 どうして?  父 そりやらつぱ卒が酔つぱらつてゐたから、お酒つ臭い臭ひをなくした上、食べることにしようと思つたのさ。  子 それから?  父...
底本:「芥川龍之介作品集第四巻」昭和出版社    1965(昭和40)年12月20日発行 ※底本の「護物」「子 それから/父 それから虎は…」「何処《どこ》かへ行つてしまつたとさ」はそれぞれ、「獲物」「子 それから?/父 それから虎は…」「何処《どこ》かへ行つてしまつたとさ。」にあらためました。 ※疑問点の確認にあたっては、「芥川龍之介全集 第十三巻」岩波書店、1996(平成8)年11月8日発行を参照しました。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月27日公開 2003年10月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で...
{ "作品ID": "000168", "作品名": "虎の話", "作品名読み": "とらのはなし", "ソート用読み": "とらのはなし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大阪毎日新聞」1926(大正15)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-27T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/...
 小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まつたのは、良平の八つの年だつた。良平は毎日村外れへ、その工事を見物に行つた。工事を――といつた所が、唯トロツコで土を運搬する――それが面白さに見に行つたのである。  トロツコの上には土工が二人、土を積んだ後に佇んでゐる。トロツコは山を下るのだから、人手を借りずに走つて来る。煽るやうに車台が動いたり、土工の袢纏の裾がひらついたり、細い線路がしなつたり――良平はそんなけしきを眺めながら、土工になりたいと思ふ事がある。せめては一度でも土工と一しよに、トロツコへ乗りたいと思ふ事もある。トロツコは村外れの平地へ来ると、自然と某処に止まつてしまふ。と同時に土工たちは、身軽にトロツコを飛び降りるが早いか、...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年3月23日公開 2004年3月13日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000169", "作品名": "トロツコ", "作品名読み": "トロッコ", "ソート用読み": "とろつこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大観」1922(大正11)年3月", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-03-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/...
 小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。良平は毎日村外れへ、その工事を見物に行った。工事を――といったところが、唯トロッコで土を運搬する――それが面白さに見に行ったのである。  トロッコの上には土工が二人、土を積んだ後に佇んでいる。トロッコは山を下るのだから、人手を借りずに走って来る。煽るように車台が動いたり、土工の袢天の裾がひらついたり、細い線路がしなったり――良平はそんなけしきを眺めながら、土工になりたいと思う事がある。せめては一度でも土工と一しょに、トロッコへ乗りたいと思う事もある。トロッコは村外れの平地へ来ると、自然と其処に止まってしまう。と同時に土工たちは、身軽にトロッコを飛び降りるが早い...
底本:「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社    1968(昭和43)年11月15日発行    1984(昭和59)年12月25日38刷改版    1989(平成元)年5月30日46刷 入力:蒋龍 校正:鈴木厚司 2004年10月31日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043016", "作品名": "トロッコ", "作品名読み": "トロッコ", "ソート用読み": "とろつこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2004-11-16T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card43016....
 菱形の凧。サント・モンタニの空に揚つた凧。うらうらと幾つも漂つた凧。  路ばたに商ふ夏蜜柑やバナナ。敷石の日ざしに火照るけはひ。町一ぱいに飛ぶ燕。  丸山の廓の見返り柳。  運河には石の眼鏡橋。橋には往来の麦稈帽子。――忽ち泳いで来る家鴨の一むれ。白白と日に照つた家鴨の一むれ。  南京寺の石段の蜥蜴。  中華民国の旗。煙を揚げる英吉利の船。『港をよろふ山の若葉に光さし……』顱頂の禿げそめた斎藤茂吉。ロティ。沈南蘋。永井荷風。  最後に『日本の聖母の寺』その内陣のおん母マリア。穂麦に交じつた矢車の花。光のない真昼の蝋燭の火。窓の外には遠いサント・モンタニ。  山の空にはやはり菱形の凧。北原白秋の歌つた凧。うらうらと幾つも漂つた凧。
底本:「芥川龍之介全集 第九巻」岩波書店    1996(平成8)年7月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "001140", "作品名": "長崎", "作品名読み": "ながさき", "ソート用読み": "なかさき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「婦女界」1922(大正11)年6月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00...
 薄暗き硝子戸棚の中。絵画、陶器、唐皮、更緲、牙彫、鋳金等種々の異国関係史料、処狭きまでに置き並べたるを見る。初夏の午後。遙にちやるめらの音聞ゆ。  久しき沈黙の後、司馬江漢筆の蘭人、突然悲しげに歎息す。  古伊万里の茶碗に描かれたる甲比丹、(蘭人を顧みつつ)どうしたね? 顔の色も大へん悪いやうだが――  蘭人、いえ、何でもありませんよ。唯ちつと頭痛がするものですから――  甲比丹、今日は妙に蒸暑いからね。  唐皮の花の間に止まれる鸚鵡、(横あひより甲比丹に)譃ですよ。甲比丹! あの人のは頭痛ではないのです。  甲比丹、頭痛ではないと云ふと?  鸚鵡、恋愛ですよ。  蘭人、(鸚鵡を嚇しつつ)余計な事を云ふな!  甲比丹(蘭人に)まあ...
底本:「芥川龍之介作品集第三巻」昭和出版社    1965(昭和40)年12月20日発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月26日公開 2004年3月6日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000104", "作品名": "長崎小品", "作品名読み": "ながさきしょうひん", "ソート用読み": "なかさきしようひん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1922(大正11)年6月", "分類番号": "NDC 912 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.ao...
 私がまだ赤門を出て間もなく、久米正雄君と一ノ宮へ行った時でした。夏目先生が手紙で「毎木曜日にワルモノグイが来て、何んでも字を書かせて取って行く」という意味のことを云って寄越されたので、その手紙を後に滝田さんに見せると、之はひどいと云って夏目先生に詰問したので、先生が滝田さんに詫びの手紙を出された話があります。当時夏目先生の面会日は木曜だったので、私達は昼遊びに行きましたが、滝田さんは夜行って玉版箋などに色々のものを書いて貰われたらしいんです。だから夏目先生のものは随分沢山持っていられました。書画骨董を買うことが熱心で、滝田さん自身話されたことですが、何も買う気がなくて日本橋の中通りをぶらついていた時、埴輪などを見附けて一時間とたた...
底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社    1995(平成7)年1月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店    1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月発行 入力:向井樹里 校正:砂場清隆 2007年2月12日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043388", "作品名": "夏目先生と滝田さん", "作品名読み": "なつめせんせいとたきたさん", "ソート用読み": "なつめせんせいとたきたさん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-03-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/c...
一  或秋の夜半であつた。南京奇望街の或家の一間には、色の蒼ざめた支那の少女が一人、古びた卓の上に頬杖をついて、盆に入れた西瓜の種を退屈さうに噛み破つてゐた。  卓の上には置きランプが、うす暗い光を放つてゐた。その光は部屋の中を明くすると云ふよりも、寧ろ一層陰欝な効果を与へるのに力があつた。壁紙の剥げかかつた部屋の隅には、毛布のはみ出した籐の寝台が、埃臭さうな帷を垂らしてゐた。それから卓の向うには、これも古びた椅子が一脚、まるで忘れられたやうに置き捨ててあつた。が、その外は何処を見ても、装飾らしい家具の類なぞは何一つ見当らなかつた。  少女はそれにも関らず、西瓜の種を噛みやめては、時々涼しい眼を挙げて、卓の一方に面した壁をぢつと眺...
底本:「現代日本文學大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 初出:「中央公論」中央公論社    1920(大正9)年7月 入力:j.utiyama 校正:柳沢成雄 1998年11月12日公開 2020年2月2日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000105", "作品名": "南京の基督", "作品名読み": "なんきんのキリスト", "ソート用読み": "なんきんのきりすと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1920(大正9)年7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-13T00:00:00", "最終更新日": "2020-02-02T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.g...
一 霹靂一声 一九二六年四月二十日水曜日の朝端しなくも東京に発表せられしロイテル電報は政治社会及商業社会に少なからぬ畏懼と激動とを与へぬ 報は火曜日の夜日本領瓜哇発にて其文左の如し 今午後の事也昨朝当港に碇泊せる仏国東洋艦隊に属せる一水兵は我太平洋艦隊なる香取の一水兵と珈琲店に於て争論を引き起し其場に居合せたる日仏両国の水兵は各々其味方をなし果は双方打擲に及び剰へ其処に掲げられし御神影は微塵にうち毀たれ簷頭に樹立せられし日本国旗は散々に寸断されぬ 仏国の水兵は遂に街路に押出され後には端艇迄追ひやられたり 聞くところによれば仏兵は小銃を発射せし由にて仏国方には二三名の死者さへ出せし趣なりされど当地の人心の激昂せると警官の非常なる沈...
底本:「現代日本文學大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 ※表題は底本では、「廿年後之戦争(中学時代)[#「(中学時代)」は1段階小さな文字]」となっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月17日公開 2020年9月23日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000145", "作品名": "廿年後之戦争", "作品名読み": "にじゅうねんごのせんそう", "ソート用読み": "にしゆうねんこのせんそう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-17T00:00:00", "最終更新日": "2020-11-30T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/...
 この夏僕のところへ、山形県から手紙が来た。手紙を出した人は、山崎操と云ふ人だつた。これが今迄、手紙を貰つたこともなければ逢つたこともない人だつた。  ところが、手紙をあけてみると、あなたに貸した百円の金を至急返してくれ、もし返してくれなければ告訴すると云ふのだから吃驚した。何でもその文面によると、僕が仙台の針久旅館とかに泊つてゐて、電報為替で金を取り寄せたと云ふのであつた。しかし僕は、山形県は勿論、仙台へ行つたこともなければ、況んや針久旅館などに泊つたこともない。  その山崎と云ふ人の手紙は、内容証明になつてゐたから、僕も早速内容証明で、あなたには逢つたこともなければ、金を借りた憶えは猶更ないと云つてやつた。それから僕は軽井沢に行...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003778", "作品名": "偽者二題", "作品名読み": "にせものにだい", "ソート用読み": "にせものにたい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3...
 舎衛城は人口の多い都である。が、城の面積は人口の多い割に広くはない。従ってまた厠溷も多くはない。城中の人々はそのためにたいていはわざわざ城外へ出、大小便をすることに定めている。ただ波羅門や刹帝利だけは便器の中に用を足し、特に足を労することをしない。しかしこの便器の中の糞尿もどうにか始末をつけなければならぬ。その始末をつけるのが除糞人と呼ばれる人々である。  もう髪の黄ばみかけた尼提はこう言う除糞人の一人である。舎衛城の中でも最も貧しい、同時に最も心身の清浄に縁の遠い人々の一人である。  ある日の午後、尼提はいつものように諸家の糞尿を大きい瓦器の中に集め、そのまた瓦器を背に負ったまま、いろいろの店の軒を並べた、狭苦しい路を歩いていた...
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月1日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000109", "作品名": "尼提", "作品名読み": "にだい", "ソート用読み": "にたい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card109.html", ...
     大谷川  馬返しをすぎて少し行くと大谷川の見える所へ出た。落葉に埋もれた石の上に腰をおろして川を見る。川はずうっと下の谷底を流れているので幅がやっと五、六尺に見える。川をはさんだ山は紅葉と黄葉とにすきまなくおおわれて、その間をほとんど純粋に近い藍色の水が白い泡を噴いて流れてゆく。  そうしてその紅葉と黄葉との間をもれてくる光がなんとも言えない暖かさをもらして、見上げると山は私の頭の上にもそびえて、青空の画室のスカイライトのように狭く限られているのが、ちょうど岩の間から深い淵をのぞいたような気を起させる。  対岸の山は半ばは同じ紅葉につつまれて、その上はさすがに冬枯れた草山だが、そのゆったりした肩には紅い光のある靄がかかっ...
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月11日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000110", "作品名": "日光小品", "作品名読み": "にっこうしょうひん", "ソート用読み": "につこうしようひん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914 915", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/0008...
 上海の商務印書館から世界叢書と云ふものが出てゐる。その一つが「現代日本小説集」である。これに輯めてあるのは国木田独歩、夏目漱石、森鴎外、鈴木三重吉、武者小路実篤、有島武郎、長与善郎、志賀直哉、千家元麿、江馬修、江口渙、菊池寛、佐藤春夫、加藤武雄、僕、この十五人、三十篇である。このうち、夏目漱石、森鴎外、有島武郎、江口渙、菊池寛の五人のは、魯迅君の訳で、その外は皆、周作人君の訳である。そして、胡適校としてある。  千九百二十二年五月於北京、――と云ふ周作人君の序文によれば、「日本の小説は、二十世紀に於て驚異すべき発達をし、国民的文学の精華となつたばかりでなく、幾多の有名な著作は又、世界的価値を持つやうになつた。その点は欧洲現代の文学...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003774", "作品名": "日本小説の支那訳", "作品名読み": "にっぽんしょうせつのしなやく", "ソート用読み": "につほんしようせつのしなやく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/...
     一  ここに面白い本がある。本の名は「ジヤパン」で、発行されたのは一八五二年である。著者はチヤアレス・マツクフアレエンといひ、日本に来たことはないが、頗る日本に興味をもつた人である。少くとも、興味をもつたと称する人である。「ジヤパン」は、この人が、ラテン、ポルトガル、スペイン、イタリイ、フランス、オランダ、ドイツ、イギリス等の文献から、日本に関する記事をあつめ、それを集大成したものである。それ等の文献は、一五六〇年から一八五〇年の間のものをあつめたものであるが、著者がかういふ題目、即ち、日本に興味をもち出したのは、兵站総監ジエエムス・ドラマンドといふ人のおかげだつたらしい。なんでも、このドラマンドなるものは、若い時に実業...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003776", "作品名": "日本の女", "作品名読み": "にっぽんのおんな", "ソート用読み": "につほんのおんな", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/car...
 予は過去二年間、海軍機関学校で英語を教へた。この二年間は、予にとつて、決して不快な二年間ではない。何故と云へば予は従来、公務の余暇を以て創作に従事し得る――或は創作の余暇を以て公務に従事し得る恩典に浴してゐたからである。  予の寡聞を以てしても、甲教師は超人哲学の紹介を試みたが為に、文部当局の忌諱に触れたとか聞いた。乙教師は恋愛問題の創作に耽つたが為に、陸軍当局の譴責を蒙つたさうである。それらの諸先生に比べれば、従来予が官立学校教師として小説家を兼業する事が出来たのは、確に比類稀なる御上の御待遇として、難有く感銘すべきものであらう。尤もこれは甲先生や乙先生が堂々たる本官教授だつたのに反して、予は一介の嘱託教授に過ぎなかつたから、予...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003753", "作品名": "入社の辞", "作品名読み": "にゅうしゃのじ", "ソート用読み": "にゆうしやのし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3...
 昔、支那の或田舎に書生が一人住んでいました。何しろ支那のことですから、桃の花の咲いた窓の下に本ばかり読んでいたのでしょう。すると、この書生の家の隣に年の若い女が一人、――それも美しい女が一人、誰も使わずに住んでいました。書生はこの若い女を不思議に思っていたのはもちろんです。実際また彼女の身の上をはじめ、彼女が何をして暮らしているかは誰一人知るものもなかったのですから。  或風のない春の日の暮、書生はふと外へ出て見ると、何かこの若い女の罵っている声が聞えました。それはまたどこかの庭鳥がのんびりと鬨を作っている中に、如何にも物ものしく聞えるのです。書生はどうしたのかと思いながら、彼女の家の前へ行って見ました。すると眉を吊り上げた彼女は...
底本:「蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇」岩波文庫、岩波書店    1990(平成2)年8月16日第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年5月15日公開 2004年1月13日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "001031", "作品名": "女仙", "作品名読み": "にょせん", "ソート用読み": "によせん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "不詳", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-05-15T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1031.h...
 楊某と云う支那人が、ある夏の夜、あまり蒸暑いのに眼がさめて、頬杖をつきながら腹んばいになって、とりとめのない妄想に耽っていると、ふと一匹の虱が寝床の縁を這っているのに気がついた。部屋の中にともした、うす暗い灯の光で、虱は小さな背中を銀の粉のように光らせながら、隣に寝ている細君の肩を目がけて、もずもず這って行くらしい。細君は、裸のまま、さっきから楊の方へ顔を向けて、安らかな寝息を立てているのである。  楊は、その虱ののろくさい歩みを眺めながら、こんな虫の世界はどんなだろうと思った。自分が二足か三足で行ける所も、虱には一時間もかからなければ、歩けない。しかもその歩きまわる所が、せいぜい寝床の上だけである。自分も虱に生れたら、さぞ退屈だ...
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年12月28日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000114", "作品名": "女体", "作品名読み": "にょたい", "ソート用読み": "によたい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「帝国文学」1917(大正6)年10月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/0...
     上  それはこの宿の本陣に当る、中村と云ふ旧家の庭だつた。  庭は御維新後十年ばかりの間は、どうにか旧態を保つてゐた。瓢箪なりの池も澄んでゐれば、築山の松の枝もしだれてゐた。栖鶴軒、洗心亭、――さう云ふ四阿も残つてゐた。池の窮まる裏山の崖には、白々と滝も落ち続けてゐた。和の宮様御下向の時、名を賜はつたと云ふ石燈籠も、やはり年々に拡がり勝ちな山吹の中に立つてゐた。しかしその何処かにある荒廃の感じは隠せなかつた。殊に春さき、――庭の内外の木々の梢に、一度に若芽の萌え立つ頃には、この明媚な人工の景色の背後に、何か人間を不安にする、野蛮な力の迫つて来た事が、一層露骨に感ぜられるのだつた。  中村家の隠居、――伝法肌の老人は、その...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2004年3月14日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000111", "作品名": "庭", "作品名読み": "にわ", "ソート用読み": "にわ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1922(大正11)年7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879...
 おれは沼のほとりを歩いてゐる。  昼か、夜か、それもおれにはわからない。唯、どこかで蒼鷺の啼く声がしたと思つたら、蔦葛に掩はれた木々の梢に、薄明りの仄めく空が見えた。  沼にはおれの丈よりも高い芦が、ひつそりと水面をとざしてゐる。水も動かない。藻も動かない。水の底に棲んでゐる魚も――魚がこの沼に棲んでゐるであらうか。  昼か、夜か、それもおれにはわからない。おれはこの五六日、この沼のほとりばかり歩いてゐた。寒い朝日の光と一しよに、水の匀や芦の匀ひがおれの体を包んだ事もある。と思ふと又枝蛙の声が、蔦葛に蔽はれた木々の梢から、一つ一つかすかな星を呼びさました覚えもあつた。  おれは沼のほとりを歩いてゐる。  沼にはおれの丈よりも高い芦...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003808", "作品名": "沼", "作品名読み": "ぬま", "ソート用読み": "ぬま", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3808.html", ...
 ある雨の降る日の午後であった。私はある絵画展覧会場の一室で、小さな油絵を一枚発見した。発見――と云うと大袈裟だが、実際そう云っても差支えないほど、この画だけは思い切って彩光の悪い片隅に、それも恐しく貧弱な縁へはいって、忘れられたように懸かっていたのである。画は確か、「沼地」とか云うので、画家は知名の人でも何でもなかった。また画そのものも、ただ濁った水と、湿った土と、そうしてその土に繁茂する草木とを描いただけだから、恐らく尋常の見物からは、文字通り一顧さえも受けなかった事であろう。  その上不思議な事にこの画家は、蓊鬱たる草木を描きながら、一刷毛も緑の色を使っていない。蘆や白楊や無花果を彩るものは、どこを見ても濁った黄色である。まる...
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年12月28日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000113", "作品名": "沼地", "作品名読み": "ぬまち", "ソート用読み": "ぬまち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1919(大正8)年5月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879...
 おれは締切日を明日に控えた今夜、一気呵成にこの小説を書こうと思う。いや、書こうと思うのではない。書かなければならなくなってしまったのである。では何を書くかと云うと、――それは次の本文を読んで頂くよりほかに仕方はない。        ―――――――――――――――――――――――――  神田神保町辺のあるカッフェに、お君さんと云う女給仕がいる。年は十五とか十六とか云うが、見た所はもっと大人らしい。何しろ色が白くって、眼が涼しいから、鼻の先が少し上を向いていても、とにかく一通りの美人である。それが髪をまん中から割って、忘れな草の簪をさして、白いエプロンをかけて、自働ピアノの前に立っている所は、とんと竹久夢二君の画中の人物が抜け出し...
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月8日公開 2004年3月12日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000106", "作品名": "葱", "作品名読み": "ねぎ", "ソート用読み": "ねき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1920(大正9)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/c...
       一  或初秋の日暮であつた。  汐留の船宿、伊豆屋の表二階には、遊び人らしい二人の男が、さつきから差し向ひで、頻に献酬を重ねてゐた。  一人は色の浅黒い、小肥りに肥つた男で、形の如く結城の単衣物に、八反の平ぐけを締めたのが、上に羽織つた古渡り唐桟の半天と一しよに、その苦みばしつた男ぶりを、一層いなせに見せてゐる趣があつた。もう一人は色の白い、どちらかと云へば小柄な男だが、手首まで彫つてある剳青が目立つせゐか、糊の落ちた小弁慶の単衣物に算盤珠の三尺をぐるぐる巻きつけたのも、意気と云ふよりは寧ろ凄味のある、自堕落な心もちしか起させなかつた。のみならずこの男は、役者が二三枚落ちると見えて、相手の男を呼びかける時にも、始終親...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月17日公開 2004年3月14日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000108", "作品名": "鼠小僧次郎吉", "作品名読み": "ねずみこぞうじろきち", "ソート用読み": "ねすみこそうしろきち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1920(大正9)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-17T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozor...
 燕雀生といふ人、「文芸春秋」三月号に泥古残念帖と言ふものを寄せたり。この帖を見るに我等の首肯し難き事二三あれば、左にその二三を記し、燕雀生の下問を仰がん。 (一)春台の語、老子に出でたりとは聞えたり。老子に「衆人熙々。如享太牢。如登春台」とあるは疑ひなし。然れども春台を「天子が侍姫に戯るる処」とするは何の出典に依るか。愚考によれば春台は礼部の異名なり。礼部は春台の外にも容台とも言ひ、南省とも言ひ、礼闈とも言ふ。春の字がついたとて、いつも女に関係ありとは限らず。宋の画苑に春宮秘戯図ある故、枕草紙を春宮とも言へど、春宮は元来東宮のことなり。 (二)才人を女官の名とするも聞えたり。才人の官、晉の武帝に創り、宋時に至つて尚之を沿用す。然れ...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003775", "作品名": "念仁波念遠入礼帖", "作品名読み": "ねんにはねんをいれちょう", "ソート用読み": "ねんにはねんをいれちよう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/card...
 ………僕は何でも雑木の生えた、寂しい崖の上を歩いて行った。崖の下はすぐに沼になっていた。その又沼の岸寄りには水鳥が二羽泳いでいた。どちらも薄い苔の生えた石の色に近い水鳥だった。僕は格別その水鳥に珍しい感じは持たなかった。が、余り翼などの鮮かに見えるのは無気味だった。――  ――僕はこう言う夢の中からがたがた言う音に目をさました。それは書斎と鍵の手になった座敷の硝子戸の音らしかった。僕は新年号の仕事中、書斎に寝床をとらせていた。三軒の雑誌社に約束した仕事は三篇とも僕には不満足だった。しかし兎に角最後の仕事はきょうの夜明け前に片づいていた。  寝床の裾の障子には竹の影もちらちら映っていた。僕は思い切って起き上り、一まず後架へ小便をしに...
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:「新潮 第二十三年第一号」    1926(大正15)年1月1日発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年10月6日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000107", "作品名": "年末の一日", "作品名読み": "ねんまつのいちにち", "ソート用読み": "ねんまつのいちにち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮 第二十三年第一号」1926(大正15)年1月1日", "分類番号": "NDC 913 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-10-06T00:00:00", "最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "図書カードURL": "https:...