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|---|---|---|
深いおどろきにうたれて、
名高いウェストミンスターに
真鍮や石の記念碑となって
すべての王侯貴族が集まっているのをみれば、
今はさげすみも、ほこりも、見栄もない。
善にかえった貴人の姿、
華美と俗世の権勢をすてた
けがれのない帝王の姿がみえるではないか。
いろどられた、おもちゃのような墓石に
今は静かに物云わぬ魂がどんなに満足していることか。
かつてはその足にふまえた全世界をもってしても
その欲望を満たすこともおさえることも出来なかったのに。
生とは冷たい幸福の結ぶ氷であり、
死とはあらゆる人間の虚栄をとかす霜解けである。
――「クリストレロの諷刺詩」一五九八年、T・B作
秋も更けて、暁闇がすぐに黄昏となり、暮れてゆく年に憂... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
※「寂莫」と「寂寞」の混在は、底本通りです。
入力:えにしだ
校正:砂場清隆
2020年3月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "059898",
"作品名": "ウェストミンスター寺院",
"作品名読み": "ウェストミンスターじいん",
"ソート用読み": "うえすとみんすたあしいん",
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"分類番号": "NDC 933",
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"公開日": "2020-04-03T00:00:00",
"最終更新日": "2020-03-28T00:00:00",
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いざ、これより樂しまむ、
仕置を受くる憂なく、
遊びたのしむ時ぞ來ぬ、
時ぞ來ぬれば、いちはやく、
讀本などは投げ捨てて行く。
――學校休暇の歌
前章で述べたのは、イギリスに於けるクリスマス祝祭に就ての幾つかの一般的な觀察であつたが、今わたしは誘惑を感ずるままに、その具體的な例證として田舍で過したクリスマスの逸話を記してみたいと思ふ。讀者が之を讀まれる際に、わたしから辭を低くして切に願ふのは、いかめしい叡知はしばらく忘れて純一な休日氣分にひたり、愚かしきことをも寛き心を以て許し、ひたすら愉樂をのみ求められんことである。
十二月のこと、ヨークシャを旅行の途上、長い道程をわたしは驛傳馬車の御厄介になつたが、それはクリスマスの前日... | 底本:「スケッチ・ブック」岩波文庫、岩波書店
1935(昭和10)年9月15日第1刷発行
2010(平成22)年2月23日第31刷発行
入力:雀
校正:小林繁雄
2013年9月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "056078",
"作品名": "駅伝馬車",
"作品名読み": "えきでんばしゃ",
"ソート用読み": "えきてんはしや",
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すべてよし。
何して遊ぼと
叱られない。
時はきた。
さっさと
本など投げだそう。
――休日に歌った昔の学校唱歌
前の章で、わたしはイギリスのクリスマスの催しごとについて概括的な観察をしたので、今度は、その実例を示すために、あるクリスマスを田舎ですごしたときの話を二つ三つ述べたいと思う。読者がこれを読まれるにあたって、わたしが切におすすめしたいのは、学者のようないかめしい態度は取り去り、心からお祭り気分になって、馬鹿げたことも大目に見て、ただ面白いことだけを望んでいただきたいということである。
ヨークシャを十二月に旅行していたとき、わたしは乗合馬車に乗って長旅をしたが、それはクリスマスの前日だった。その馬車は内も外もいっぱ... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2021年4月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "060224",
"作品名": "駅馬車",
"作品名読み": "えきばしゃ",
"ソート用読み": "えきはしや",
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年老いた人をいたわりなさい。その銀髪は、
名誉と尊敬をつねに集めてきたのです。
――マーロウ作「タムバレーン」
わたしは田舎に住んでいるころ、村の古い教会によく行ったものだ。ほの暗い通路、崩れかかった石碑、黒ずんだ樫の羽目板、過ぎさった年月の憂鬱をこめて、すべてが神々しく、厳粛な瞑想にふける場所ににつかわしい。田園の日曜日は浄らかに静かである。黙然として静寂が自然の表面にひろがり、日ごろは休むことのない心も静められ、生れながらの宗教心が静かに心のなかに湧きあがってくるのを覚える。
かぐわしい日、清らかな、静かな、かがやかしい日、
天と地の婚礼の日。
わたしは、信心深い人間であるとは言えない。しかし、田舎の教会にはい... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
※表題は底本では、「寡婦《かふ》とその子」となっています。
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2021年9月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "060225",
"作品名": "寡婦とその子",
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だが、あのなつかしい、思い出ふかいクリスマスのお爺さんはもう逝ってしまったのだろうか。あとに残っているのは、あの年とった頭の白髪と顎ひげだけなのか。それでは、それをもらおう。そのほかにクリスマスのお爺さんのものはないのだから。
――クリスマスを追う声
あのころのクリスマスには、
どこの家でも見たものだ。
寒さを払う火もあたたかく、
肉のご馳走が山ほどあった、偉い人にも賤しい人にも。
近所の人はみな招ばれ、
心からのもてなしだ。
貧しい人でも門前ばらいは食わなんだ。
それは、この古帽子が真新しかったころのこと。
――古謡
イギリスで、わたしの心をもっとも楽しく魅惑するのは、昔から伝わっている祭日のならわしと田舎の遊びごとで... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2021年11月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "060231",
"作品名": "クリスマス",
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聖フランシス樣、聖ベネディクト樣、
この家を惡しき者共からお守り下さい。
夢魔と、あのロビン殿と呼ばれる
物の怪からお守り下さい。
惡靈共が襲ひ入りませぬやぅぅ、
妖精や鼬鼠、鼠、狸などの入りませぬやぅぅ、
夕の鐘の鳴る時から
翌朝までお守り下さい。
カートライト
皓々と月照る夜であつた、けれど寒さは嚴しかつた。わたし達の馬車は凍てついた大地をりんりんと疾驅した。馭者は絶え間なく鞭を打鳴し、馬は暫く勢よく疾走を續けた。「馭者は行先を心得てゐるのです」わたしの道連れは笑ひながら云つた。「それに召使部屋がまだ賑かに笑ひさざめいてゐるうちに行き着かうと思つて一所懸命なのです。わたしの父と云ふのは、よろしいですか、頑固な昔者でしてね... | 底本:「スケッチ・ブック」岩波文庫、岩波書店
1935(昭和10)年9月15日第1刷発行
2010(平成22)年2月23日第31刷発行
※「並樹道」と「並樹路」の混在は底本通りです。
入力:雀
校正:小林繁雄
2013年7月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "056033",
"作品名": "クリスマス・イーヴ",
"作品名読み": "クリスマス・イーヴ",
"ソート用読み": "くりすますいいう",
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"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
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"公開日": "2013-08-08T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-16T00:00:00",
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聖フランシス様、聖ベネディクト様。
この家を悪しきものからお守り下さい。
悪い夢や、ロビンという名の人のいいお化けから
すべての悪霊、
妖精、鼬、鼠、白鼬からお守り下さい。
晩鐘の時から、
暁の勤行まで。
――カートライト
皎々と月のさえた夜だったが、寒さははげしかった。わたしたちの駅伝馬車は、凍てついた大地を矢のように走った。馭者はたえず鞭を打ちならし、馬はしばらく疾駆した。「馭者は自分の行くところをよく知っているんです」とわたしの友は言って、笑った。「それで、一生懸命になって、召使部屋の催しとご馳走に間にあうように着こうとしているんですよ。じつを申しますと、父は、古風な凝り屋で、昔のイギリス流の客のもてなしぶりを今もやっ... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2021年11月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "060232",
"作品名": "クリスマス・イーヴ",
"作品名読み": "クリスマス・イーヴ",
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わたしは聞いたことがない
悩みのないまことの愛というものを。
世にもかぐわしい春の書物バラの花びらにも似た愛の心を
毛虫のように悩みは蝕む。
――ミドルトン
たいていの人は、年をとって青春の感受性を失ってしまったり、あるいは真実の愛情のない放埒な遊蕩生活をしたりして育つと、恋物語をあざわらい、恋愛小説を小説家や詩人の単なる虚構にすぎないと考えるものである。わたしは人間についていろいろと観察してみた結果、その反対だと考えるようになった。わたしの信ずるところでは、たとえ人間性の表面が浮世の苦労のために冷たく凍ってしまい、あるいは社交術によってただ無意味に微笑んでいるばかりになろうとも、眠っている火が、どんなに冷たい胸でもその奥に... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2021年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "060226",
"作品名": "傷心",
"作品名読み": "しょうしん",
"ソート用読み": "しようしん",
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"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"公開日": "2022-01-08T00:00:00",
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年よりの年経た頭につくられた一つの古い歌がある、
年とった立派なだんながありまた、大きな地所をもっていて、
広い広い古邸、そこで気前のよい暮らし、
門では年より門番が貧乏人を助けてた。
古い書斎はかたくるしい昔の本でいっぱいだ、
偉い牧師は年よりで、一目でそれとすぐわかる、
食堂の御馳走運ぶその窓の戸なんぞこわれて取れている、
年経た厨に年経たコック、その数全部で六人だ。
お宮仕えのおいぼれに、そっくりそのまま……云々
――古謡
イギリス国民が得意とする滑稽のうちで、彼らがもっとも長じているのは、ものごとを漫画化したり、道化た名称やあだ名をつけたりすることである。こういうふうにして、彼らが名をつけたものは単に個人だけでなく、... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2021年10月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "060233",
"作品名": "ジョン・ブル",
"作品名読み": "ジョン・ブル",
"ソート用読み": "しよんふる",
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"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2021-11-28T00:00:00",
"最終更新日": "2021-10-27T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/card60... |
「サクソンの畏き神に縁みてぞ、けふをば『ヱンスデイ』といふ。その神見ませ、よるよりも暗くさびしき墳墓に、降りゆくまで我が守る宝といふは誠のみ。」
カアトライト
ホトソンに沿うて登つて行つたことのある旅人は、屹度ケエツキルの山を覚えて居ませう。これはアパラツチエン山の幹から出た小枝で、遙に西に向つて、仰いで見れば、麓は河の畔に垂れて、巓は空に聳え、自づと近隣の地を支配して居ます。四季の変、天気の更は勿論、一日の中でも、一刻一刻に不思議にも色と形とを改めるは此山です。それだからこの山の見える処に住む女房は、皆なこれを晴雨計にします。好い天気の続くときは、青か紫かの衣を着て、その大胆らしい界の線を翳のない夕空に画き、時としては、近き傍の... | 底本:「鴎外選集 第16巻」岩波書店
1980(昭和55)年2月22日第1刷発行
1980(昭和55)年6月30日第2刷発行
初出:「少年園 第二巻 第十三号」
1889(明治22)年5月3日発行
「少年園 第二巻 第十四号」
1889(明治22)年5月18日発行
「少年園 第二巻 第十五号」
1889(明治22)年6月3日発行
「少年園 第二巻 第十六号」
1889(明治22)年6月18日発行
「少年園 第二巻 第十七号」
1889(明治22)年7月3日発行
「少年園 第二巻 第十八号」
1889(明治22)年7月18日発行
「少年園 第二巻 第二... | {
"作品ID": "060357",
"作品名": "新浦島",
"作品名読み": "しんうらしま",
"ソート用読み": "しんうらしま",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "RIP VAN WINKLE. EINE NACHGELASSENE SCHRIFT VON DIETRICH KNICKERBOCKER.",
"初出": "「少年園 第二巻 第十三号」1889(明治22)年5月3日<br>「少年園 第二巻 第十四号」1889(明治22)年5月18日<br>「少年園 第二巻 第十五号」1889(明治22)年6月3日<br>「少年園 第二巻 第十六号」1889(明治2... |
そこは心地よいまどろみの国。
夢は半ばとじた眼の前にゆれ、
きらめく楼閣は流れる雲間にうかび、
雲はたえず夏空に照りはえていた。
――倦怠の城
ハドソン河の河幅がひろがり、むかしオランダ人の航海者がタッパン・ジーと名づけていたところでは、彼らは用心していつでも帆をちぢめ、航海者の守り、聖ニコラスに加護をねがいながら、横断したものだ。そこの東側の岸にくいこんでいる広い入江の奥に、小さな市場か田舎の港といったような町があり、ある人たちはグリーンズバラと呼んでいるが、本来はタリー・タウン(ぶらつき町)という名が正しく、また普通にはその名で知られている。聞くところによれば、この名は、そのむかしこの近隣の女房たちがつけたもので、市場のひ... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:鈴木厚司
校正:砂場清隆
2011年8月30日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "046658",
"作品名": "スリーピー・ホローの伝説",
"作品名読み": "スリーピー・ホローのでんせつ",
"ソート用読み": "すりいひいほろおのてんせつ",
"副題": "故ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿より",
"副題読み": "こディードリッヒ・ニッカボッカーのいこうより",
"原題": "THE LEGEND OF SLEEPY HOLLOW",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2011-12-31T00:00:00",
... |
深海の宝の貴さも、
女の愛につつまれた
男のひそかな慰めには及ばない。
ただ家に近づくだけで、わたしは幸福の気配を感ずる。
結婚はなんと甘美な香りをはなつものか。
菫の花壇もそれほど芳しくはない。
――ミドルトン
わたしはしばしば機会があって、女性が忍耐強く、抗しがたいような逆境にたえてゆくのを見たことがある。男性の心をひしぎ、一敗地にまみれさせる災難が、女性の場合には、かえって全精力を呼びおこし、気高く大胆に、ときには崇高にさえするのだ。か弱くやさしい女が、順調な人生の路をたどっているあいだは、いかにも柔弱で、ひとの力に頼り、ちょっとでもつらいことがあるとぴりぴりとそれを感じていたのに、一旦不幸にあうと、たちまち心をはげま... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2022年3月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "060227",
"作品名": "妻",
"作品名読み": "つま",
"ソート用読み": "つま",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2022-04-03T00:00:00",
"最終更新日": "2022-03-27T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/card60227.html",
... |
船よ、船よ。大海原の真只中でも
わたしはお前を見つけ出す。
わたしは行ってお前にたずねよう、
何を護っているのか、
何をもくろんでいるのか、
お前のめざす目的は何なのだ。
ある船は外国へ行って商業取引をする。
ある船は母国にとどまり、外敵を防ぐ。
またある船は高価な荷物を山と積んで家路をいそぐ。
おーい、空想よ、お前はどこへ行くのだ。
――古謡
ヨーロッパを訪れようとするアメリカ人は長い航海をしなければならないが、それがまたとないよい準備になる。浮世のわずらいや雑用がしばらくは全くなくなってしまうので、新しい鮮かな印象を受けいれるのには最適な精神状態ができあがるのである。地球の両半球をわかつ広茫たる海原は、人生行路に横たわる... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2022年3月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "060228",
"作品名": "船旅",
"作品名読み": "ふなたび",
"ソート用読み": "ふなたひ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2022-04-03T00:00:00",
"最終更新日": "2022-03-27T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/card60228.htm... |
彼の人の夕餉の支度はととのった、
今宵は冷たく横たわるやもしれぬ彼の人の。
昨夜はわたしが寝間に招じいれたが、
今宵は剣の床が待っている。
――イーガー卿、グレーム卿、グレイスティール卿
マイン河とライン河の合流しているところからそう遠くない、上ドイツの荒れはてた幻想的な地方、オーデンヴァルトの高地のいただきに、ずっとむかしのこと、フォン・ランドショート男爵の城が立っていた。それは今ではすっかり朽ちはてて、ほとんど山毛欅やうっそうとした樅の木のなかに埋もれてしまっている。しかし、その木々のうえには、古い物見櫓がいまもなお見え、前述のかつての城主と同様、なんとか頭を高くもたげようとし、近隣の地方を見おろしているのである。
そ... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
※表題は底本では、「幽霊|花婿《はなむこ》」となっています。
※副題は底本では、「ある旅人の話(原註1)[#「(原註1)」は行右小書き]」となっています。
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2021年3月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "060229",
"作品名": "幽霊花婿",
"作品名読み": "ゆうれいはなむこ",
"ソート用読み": "ゆうれいはなむこ",
"副題": "ある旅人の話",
"副題読み": "あるたびびとのはなし",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2021-04-03T00:00:00",
"最終更新日": "2021-03-27T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/... |
水曜日の名が由来した、
サクソン人の神ウォーデンに
誓って言う。
真理をこそ、わたしは常に守ろう、
おくつきに入るその日まで。
――カートライト
〔この物語は、ニューヨークの一老紳士、故ディードリッヒ・ニッカボッカー氏の記録のなかに発見されたものである。彼はこの地方のオランダ人の歴史や、その初期の移民の子孫たちの風習に、たいへん興味をもっていた。しかし、彼の歴史の研究は、文献をさぐるよりも、むしろ生きた人間についておこなわれた。彼の好んだ題目について記された書物はじつに悲しむべきほど少く、それにひきかえて、年とったオランダ市民たちはもちろんだが、ましてその細君たちが、真実の歴史にはなくてはならない貴重な口碑伝説をたくさん知って... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
※「THE SKETCH BOOK (スケッチ・ブック)」英米文学叢書、研究社出版、1986(昭和61年)1月20日18版発行の原文上では、「アパラチヤ大山系から」は「of the great Appalachian family」、「よく晴れた秋の日、」は「on a fine autumnal day,」、「大丈夫で」は「and a stout」となっています。「アパラチヤ大山系から」と「よく晴れた秋の日、」はママ注記としました。「大丈夫で」には原文の意味もあるので注記はつけていません。
入力:... | {
"作品ID": "053680",
"作品名": "リップ・ヴァン・ウィンクル",
"作品名読み": "リップ・ヴァン・ウィンクル",
"ソート用読み": "りつふうあんういんくる",
"副題": "ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿",
"副題読み": "ディードリッヒ・ニッカボッカーのいこう",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2019-11-28T00:00:00",
"最終更新日": "2020-03-19T00:00:00",
... |
わたしはホーマーと同じ考えである。ホーマーの考えというのは、カタツムリが、殻からはい出して、やがてガマになると、そのために腰掛けをつくらなければならなくなる。それと同じように、旅人も生れ故郷からさまよい出ると、たちまち奇妙なすがたになるので、その生活様式にふさわしいように住む家を変え、住めさえすれば、たとえのぞみの場所ではなくとも、そこに住まなければならなくなるというのである。
――リリー「ユーフューズ」
わたしはいつでも、はじめての土地に行って、変った人たちや風俗を見るのが、好きだった。まだほんの子供のころから、わたしは旅をしはじめ、自分の生れた町の中で、ふだん行かない所や知らない場所にいくども探険旅行をして、しょっちゅ... | 底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社
1957(昭和32)年5月20日発行
2000(平成12)年2月20日33刷改版
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2021年3月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "060230",
"作品名": "わたくし自身について",
"作品名読み": "わたくしじしんについて",
"ソート用読み": "わたくしししんについて",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 933",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2021-04-03T00:00:00",
"最終更新日": "2021-03-27T00:00:00",
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序
偉人の伝記というと、ナポレオンとかアレキサンドロスとか、グラッドストーンというようなのばかりで、学者のはほとんど無いと言ってよい。なるほどナポレオンやアレキサンドロスのは、雄であり、壮である。しかし、いつの世にでもナポレオンが出たり、アレキサンドロスの出ずることは出来ない。文化の進まざる時代の物語りとして読むには適していても、修養の料にはならない。グラッドストーンのごときといえども、一国について見れば二、三人あり得るのみで、しかも大宰相たるは一時に一人のみしか存在を許さない。これに反して、科学者や哲学者や芸術家や宗教家は、一時代に十人でも二十人でも存在するを得、また多く存在するほど文化は進む。ことに科学においては、言葉を用う... | 底本:「ファラデーの傳」岩波書店
1923(大正12)年5月15日第1版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「佛蘭西→フランス 伊太利→イタリア 伊→イタリア 伊国→イタリア 瑞西→スイス 佛国→フランス 希臘→ギリシャ 獨→ドイツ 獨逸→ドイツ 獨国→ドイツ 佛→フランス 瑞→スイス 墺→オーストリア 巴里→パリ 羅馬→ローマ 土耳古→トルコ 白耳義→ベルギー 亜米利加→アメリカ 墺地利→オーストリア 瑞典→スウェーデン 英→イギリス 埃及→エジプト 瓦斯→ガス 硝子→ガラス 土蛍→ミミズ 沃素→ヨウ素 ... | {
"作品ID": "046340",
"作品名": "ファラデーの伝",
"作品名読み": "ファラデーのでん",
"ソート用読み": "ふあらてえのてん",
"副題": "電気学の泰斗",
"副題読み": "でんきがくのたいと",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 289",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-12-24T00:00:00",
"最終更新日": "2015-04-05T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.j... |
人間が石にたよるやうになつて、もうよほど久しいことであるのに、まだ根気よくそれをやつてゐる。石にたより、石に縋り、石を崇め、石を拝む。この心から城壁も、祭壇も、神像も、殿堂も、石で作られた。いつまでもこの世に留めたいと思ふ物を作るために、東洋でも、西洋でも、あるひは何処の極でも、昔から人間が努めてゐる姿は目ざましい。人は死ぬ。そのまま地びたに棄てておいても、膿血や腐肉が流れつくした後に、骨だけは石に似て永く遺るべき素質であるのに、遺族友人と称へるものが集つて、火を点けて焼く。せつかくの骨までが粉々に砕けてしまふ。それを拾ひ集めて、底深く地中に埋めて、その上にいかつい四角な石を立てる。御参りをするといへば、まるでそれが故人であるやう... | 底本:「日本の名随筆88 石」作品社
1990(平成2)年2月25日第1刷発行
1996(平成8)年8月25日第5刷発行
底本の親本:「續 渾霽随筆」中公文庫、中央公論社
1980(昭和55)年1月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "046511",
"作品名": "一片の石",
"作品名読み": "いっぺんのいし",
"ソート用読み": "いつへんのいし",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-01-03T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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既に美育部を持つてゐる早稻田中學校が新に音樂會を興してその發會式をやらうとする其の日から、又病氣で暫く引き籠る事になつた。私は元來音樂には殆ど無智で趣味も深いとは言へない。けれども相應な希望は持つてゐる。病中ながら、その希望を會員の諸君にも會員外の諸君にも一寸申し上げてみたいと思ふ。
吾々は何の爲に畫を描くか? かつて美育部の展覽會で私がかう云ふ問題を出し、そして自分でこの問に答へた事がある。吾々が美育部で努めなければならぬ事は、專門家になる爲に繪を描くのではない、人間として繪を描くのであると云ふ事を自分自身にも他人にも明瞭にしておくべき事――則ち是である。
むづかしい修養の爲でなく單なる娯樂の爲に繪を描く人があつても必... | 底本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1982(昭和57)年4月25日初版発行
底本の親本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1969(昭和44)年刊行
初出:「興風」
1922(大正11)年2月
入力:フクポー
校正:鴨川佳一郎
2017年10月25日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "057975",
"作品名": "音楽に就いて",
"作品名読み": "おんがくについて",
"ソート用読み": "おんかくについて",
"副題": "",
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"初出": "「興風」1922(大正11)年2月",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2017-11-21T00:00:00",
"最終更新日": "2017-10-25T00:00:00",
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古い日記や手紙などを、みんな燒いてしまつたので、こまかに時日をいへないが、まだ若い中學教師であつた私が、牛込下戸塚町の素人下宿から、小石川豐川町へ引越して、その時越後から出て來たばかりの三人の書生と初めて所帶を持つたのは、たしか大正のはじめであつた。その時書生たちが机を並べた八疊の間の床の間の壁に、私がその人たちのために作つた四か條の學規といふものを自筆で書いて貼らせた。けれども受驗勉強で夢中になつてゐる書生たちは、誰一人としてそんな文句に目をくれるものもなく、どれほど窮屈な氣持で、これをうとましく思つたものもなかつた。けつきよくこの學規は、私自身のために私が作つて、書いて、そして自分を警しめるだけのものになつてしまつた。それから... | 底本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1982(昭和57)年4月25日初版発行
※底本のテキストは、著者自筆原稿によります。
入力:フクポー
校正:鴨川佳一郎
2017年6月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "057976",
"作品名": "学規",
"作品名読み": "がくき",
"ソート用読み": "かくき",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2017-07-01T00:00:00",
"最終更新日": "2017-06-25T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001245/card57976.html"... |
昨日が所謂彼岸の中日でした。吾々のやうに田舎に住むものの生活が、これから始まるといふ時です。私も東京の市中を離れた此の武蔵野の畑の最中に住んで居るから、今日は庭の隅に片寄せてある菊の鉢を取り出して、この秋を楽しむ為に菊の根分をしようとして居るところです。実は私は久しいこと菊を作つて居るのであるが、此二三年間は思ふ所あつて試にわざと手入れをしないで投げやりに作つて見た。一体菊と云ふものは其栽培法を調べて見ると、或は菊作りの秘伝書とか植木屋の口伝とかいふものがいろ〳〵とあつて、なか〳〵面倒なものです。これほど面倒なものとすれば、到底素人には作れないと思ふほどやかましいものです。そして此色々な秘訣を守らなければ、存分に立派な菊が作られな... | 底本:「花の名随筆3 三月の花」作品社
1999(平成11)年2月10日初版第1刷発行
底本の親本:「會津八一全集 第七巻」中央公論社
1982(昭和57)年4月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月18日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "046512",
"作品名": "菊の根分をしながら",
"作品名読み": "きくのねわけをしながら",
"ソート用読み": "きくのねわけをしなから",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-01-03T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards... |
私ほど名実の副はない蒐集家は無い。何か余程いゝものでも沢山持つて居るやうに云ひ囃やされながら、実は是れと云ふほどのものは何も持たない。
小石川に住んで居る頃に――これは十数年も前のことだが――諸国の郷土玩具を集めたことがあつた。六百種もあつたかと思ふ。しかしこれは世間の玩具通などのするやうに、いろいろの変つた物を集めて自慢をするといふのでは無く、其頃しきりに私の考へて居た原始的信仰の研究資料にと思つたのであつた。不幸にして此の玩具の大半は出版部の倉庫の中で洪水を喫つて全滅してしまつた。
次に私が今現に持つて居ていくらか話の種にしてもいゝと思ふのは支那の明器、即ち古墳から発掘される土製の人形や器物の類で、私の持つて居るのは百三四... | 底本:「日本の名随筆 別巻9 骨董」作品社
1991(平成3)年11月25日第1刷発行
1999(平成11)年8月25日第6刷発行
底本の親本:「會津八一全集 第七巻」中央公論社
1982(昭和57)年4月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "046513",
"作品名": "支那の明器",
"作品名読み": "しなのめいき",
"ソート用読み": "しなのめいき",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 756 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-01-03T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001245/ca... |
「それは意見の相違だ」と互に頑張りあつて、相下らない。こんな事は世間の政治家の間などには、珍らしくも無くなつて仕舞つたが、「趣味の相違」といふ捨科白を美術や文學などに心を寄せる人々との間にも折々聞かされるので、其度毎に私はいやな思ひをする。世の中がデモクラチックになつて行くに從つて、意見の相違も重大さを増して來るであらうし、文藝上の事も畢竟趣味の相違に、あらゆる議論が歸着するかもしれぬが、それは究竟地のことであつて、最初から「趣味の相違」を持ち出すのは不謹愼な、そして危險千萬な話である。
× × ×
趣味には相違といふ事のほかに階級がある。即ち高い低いがある、淺い深いがある、精粗の別がある、あらゆる人... | 底本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1982(昭和57)年4月25日初版発行
底本の親本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1969(昭和44)年刊行
初出:「興風」
1924(大正13)年12月
入力:フクポー
校正:鴨川佳一郎
2017年10月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "057977",
"作品名": "趣味の向上",
"作品名読み": "しゅみのこうじょう",
"ソート用読み": "しゆみのこうしよう",
"副題": "――青年学生のために――",
"副題読み": "――せいねんがくせいのために――",
"原題": "",
"初出": "「興風」1924(大正13)年12月",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2017-11-21T00:00:00",
"最終更新日": "2017-10-25T00:00:00",
"図書カー... |
何處までも〳〵芋畑や雜木林ばかりで退屈な汽車の窓に、小ぢんまりとした木立が見えて、それが近づくにつれて庭には草花が綺麗に咲かせてあつて、その中に白い鷄が遊んで居る、家の造りも面白い、こんな時に、飛ぶやうに通り過ぎて行く旅人の目にも、先づ床しいものは其家の主人である。また裏長屋の軒竝を歩いて居るうちに、不圖ある家の窓から床の間の一軸、それが名も無い畫家の作であるかも知れぬ、その前に活けてある花瓶が市價の乏しいものであつても、無暗に其家の主人を懷しがらせることがある。吾々が人を懷かしく思ふやうに人がまた吾々を懷かしく思ふこともあるかもしれぬ。私はこれが面白いことだと思ふ。しかし世の中には、誰に見せても少しも床しくも懷しくも思はれぬ人も... | 底本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1982(昭和57)年4月25日初版發行
初出:「興風」
1922(大正11)年8月
入力:フクポー
校正:杉浦鳥見
2018年10月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "058663",
"作品名": "趣味の修養",
"作品名読み": "しゅみのしゅうよう",
"ソート用読み": "しゆみのしゆうよう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「興風」1922(大正11)年8月",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2018-11-21T00:00:00",
"最終更新日": "2018-10-24T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr... |
私は新潟の生れで小學校は西堀小學校(今はないが、廣小路の消防の詰署のある附近)へ通つたものだ。そこを出て大畑の高等小學校へ進んだが、成績はけつして優等どころでなく、やうやく眞中へとどくかとどかないかといふ程度だつた。
卒業する時、學校へ自分の目的を紙に書いて出すこととなつた。その時私の同級生は總理大臣になりたいとか、陸軍大臣けん海軍大臣になるとか、さういふことをはなばなしく書いて出した人が多かつた。私は今でもわすれないが、小學校を出たなら百姓になる、ただの百姓で一生くらしたいといふことを書いて出した記憶がある。
當時そんなことを書いたのは私だけだつたと思ふ。當時の私は年齡的にも希望に輝いてをらず成績もあまりよくなかつたために、... | 底本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1982(昭和57)年4月25日初版発行
底本の親本:「會津八一全集 第六卷」中央公論社
1968(昭和43)年刊行
初出:「少年少女新潟日報」
1952(昭和27)年1月13日
入力:フクポー
校正:鴨川佳一郎
2017年6月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "057978",
"作品名": "少年少女におくる言葉",
"作品名読み": "しょうねんしょうじょにおくることば",
"ソート用読み": "しようねんしようしよにおくることは",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「少年少女新潟日報」1952(昭和27)年1月13日",
"分類番号": "NDC K914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2017-07-01T00:00:00",
"最終更新日": "2017-06-25T00:00:00",
"図書... |
小泉八雲といへば、日本人の名であるし、日本人として東京の宅で死んでその全集は日本語で出版されてゐるが、父は英國のアイルランドの軍醫、母はギリシャのリウカヂアの娘、子供の時はフランスの叔母の手で育てられ、青年時代にアメリカへ渡つて文學者となり、日本へ來て出雲松江の中學教師となり、小泉といふ士族の家へ婿入りして、日本人になり、熊本の高校、東京帝大に轉任して英文學の講義をし、おしまひは早稻田へ來て亡くなつた。經歴からが世界的で、作物も世界的にひろく讀まれ、文豪の名が高い。
私もその最後の講義を聞いた一人だが、亡くなられてから、その三人の男の子たちの教育から家事のことまで、いつも夫人の相談を受けてゐた。ある日、夫人が宅へ見えられて、家計... | 底本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1982(昭和57)年4月25日初版発行
初出:「夕刊ニイガタ」
1948(昭和23)年5月25日
入力:フクポー
校正:杉浦鳥見
2019年7月30日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "058664",
"作品名": "綜合大学の図書",
"作品名読み": "そうごうだいがくのとしょ",
"ソート用読み": "そうこうたいかくのとしよ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「夕刊ニイガタ」1948(昭和23)年5月25日",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2019-08-01T00:00:00",
"最終更新日": "2019-07-30T00:00:00",
"図書カードURL": "https:... |
綜合大學が新潟に出來ることに本ぎまりにきまつたといふことはまことにうれしい。いち早く氣勢を上げて、猛烈に奔走してくれた指導者たちに感謝しなければならない。
けれども、綜合大學は、もう全國に二十も出來てゐる。ひろく見渡せば、珍しいものがこれから出現するのではない。これが出來たからといつて、この縣が他縣に對して大に威張れるといふのではない。もし大に威張りたいなら、實質的に、ほんとに上等のものを作つて見せなければならない。貧弱なものでは威張るどころの話でない。
大學といふのは學校としては一番高等のもので、最高の學府などといつてゐる。敷地の廣いのも、建物の立派なのも必要ではあるが、それより大切なのは、いい教師といい學生のたくさん集まる... | 底本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1982(昭和57)年4月25日初版発行
初出:「夕刊ニイガタ」
1948(昭和23)年5月9日
入力:フクポー
校正:杉浦鳥見
2019年11月1日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "058665",
"作品名": "綜合大学を迎へて",
"作品名読み": "そうごうだいがくをむかえて",
"ソート用読み": "そうこうたいかくをむかえて",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「夕刊ニイガタ」1948(昭和23)年5月9日",
"分類番号": "NDC 377 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2019-11-21T00:00:00",
"最終更新日": "2019-11-01T00:00:00",
"図書カードURL": "... |
綜合大學を作るのに、まづもつて、何よりも大切なのは、よき總長を得ることだといふやうな意見を、最近何處かで見たが、これはとんでもない大まちがひの意見で、私は、びつくりしてしまつた。大學を作るには、先日も述べたやうに何より大切なのは、よき教授を見つけて來ることで、總長は、その教授團の中から選擧で出來るものだ。
國立大學は、もともと、政府が建てたもので、その目的が、學問の研究にあるのは、いふまでもないが、さしあたつて明治の新政府に採用すべき役人の養成といふ使命があつた。この使命は、初期には、ことに強かつた。そこで官僚大學といふ名實を備へることになつた。けれども、いくつかの部門に分れ、それぞれの部長があつたので、その上に總長があつた。そ... | 底本:「會津八一全集 第七卷」中央公論社
1982(昭和57)年4月25日初版発行
初出:「夕刊ニイガタ」
1948(昭和23)年5月15日
入力:フクポー
校正:杉浦鳥見
2019年10月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "058666",
"作品名": "大学とその総長",
"作品名読み": "だいがくとそのそうちょう",
"ソート用読み": "たいかくとそのそうちよう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「夕刊ニイガタ」1948(昭和23)年5月15日",
"分類番号": "NDC 377 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2019-11-21T00:00:00",
"最終更新日": "2019-10-28T00:00:00",
"図書カードURL": "ht... |
私は拓本の御話をしやう。
支那では昔からすべて文字で書いたものを大切にするが、誰が書いたところで相當に年月が經てばみんな消えて仕舞ふ。紙でも、絹でも、木でも、――名人が書けば木の中へ何寸も深く字が喰ひ込むなどと昔からいふことであるけれども、其木からが千年も經てば磨滅もする風化もする。無くなつてみれば勿論紀念にもならないし、習字の手本にもならない。そこで金屬や石といふやうな堅いものに刻りつけて、いつまでも保存するやうにすることが、もう隨分古くから行はれて居る。殷や周の銅器の刻文、秦の玉版や石刻の文字、漢魏の碑碣などがそれだ。みな千年萬年の後へ遺すつもりで作られたものだ。その文字のある所へ紙を載せて、その上から油墨で刷つたものが俗に... | 底本:「日本の名随筆27 墨」作品社
1985(昭和60)年1月25日第1刷発行
1997(平成9)年5月20日第17刷発行
底本の親本:「會津八一全集 第一一巻」中央公論社
1982(昭和57)年10月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月18日作成
2012年4月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "046514",
"作品名": "拓本の話",
"作品名読み": "たくほんのはなし",
"ソート用読み": "たくほんのはなし",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 728 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-01-01T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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(一九一一年一月一六日チューリッヒの自然科学会席上の講義)
「相対性理論」と名づけられる理論が倚りかかっている大黒柱はいわゆる相対性理論です。私はまず相対性原理とは何であるかを明らかにしておこうと思います。私たちは二人の物理学者を考えてみましょう。この二人の物理学者はどんな物理器械をも用意しています。そして各々一つの実験室をもっています。一人の物理学者の実験室はどこか普通の場所にあるとし、もう一人の実験室は一定の方向に一様な速さで動く汽車の箱のなかにあるとします。相対性原理は次のことを主張するのです。もしこの二人の物理学者が彼等のすべての器械を用いて、一人は静止せる実験室のなかで、もう一人は汽車のなかで、すべての自然法則を研究するな... | 底本:「世界大思想全集 48」春秋社
1930(昭和5)年12月5日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「或る→ある 或は→あるいは 謂わゆる→いわゆる (て)居→い・お 於て→おいて 於ける→おける 却って→かえって 且つ→かつ かも知れ→かもしれ 斯様→かよう 斯う→こう 此・此の・斯の→この 之→これ 併し→しかし 暫く→しばらく 即ち→すなわち 凡て→すべて 然う→そう 抑も→そもそも それ故→それゆえ 唯→ただ 丁度→ちょうど 就いて・就て→ついて 何故→なぜ 並びに→ならびに 筈→はず 甚だ→は... | {
"作品ID": "050328",
"作品名": "相対性理論",
"作品名読み": "そうたいせいりろん",
"ソート用読み": "そうたいせいりろん",
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"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 421",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2018-04-18T00:00:00",
"最終更新日": "2023-06-21T00:00:00",
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第一囘
鐵道の進歩は非常の速力を以て鐵軌を延長し道路の修繕は縣官の功名心の爲に山を削り谷を埋む今ま三四年せば卷烟草一本吸ひ盡さぬ間に蝦夷長崎へも到りヱヘンといふ響きのうちに奈良大和へも遊ぶべし况んや手近の温泉塲など樋をかけて東京へ引くは今の間なるべし昔の人が須磨明石の月も枴にかけてふり賣にやせんと冷評せしは實地となること日を待たじ故に地方漫遊のまた名所古跡一覽のと云ふ人は少し出立を我慢して居ながら伊勢の大神宮へ賽錢あぐる便利を待つたが宜さうなものといふ人もあれど篁村一種の癖ありて「容易に得る樂みは其の分量薄し」といふヘチ理屈を付け旅も少しは草臥て辛い事の有るのが興多しあまり徃來の便を極めぬうち日本中を漫遊し都府を懸隔だちたる地の風... | 底本:「明治文學全集 94 明治紀行文學集」筑摩書房
1974(昭和49)年1月30日第1刷発行
底本の親本:「むら竹 第二十卷」春陽堂
1890(明治23)年12月
初出:「東京朝日新聞」
1890(明治23)年5月3日~7月3日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※「石荒阪」と「石荒坂」、「居爐裡」と「圍爐裏」、「險阻」と「嶮岨」、「桔梗《きゝやう》が原《はら》」と「桔梗《きゝやう》ヶ|原《はら》」、「※[#「てへん+丙」、第4水準2-13-2]」と「柄」の混在は底本の通りです。
※「國境」に対するルビの「くにさかひ」と「くにざかひ」の混在は、底本通... | {
"作品ID": "056014",
"作品名": "木曽道中記",
"作品名読み": "きそどうちゅうき",
"ソート用読み": "きそとうちゆうき",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「東京朝日新聞」1890(明治23)年5月3日~7月3日",
"分類番号": "NDC 915",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2019-06-20T00:00:00",
"最終更新日": "2019-05-28T00:00:00",
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第一囘
三月二十日、今日は郡司大尉が短艇遠征の行を送るに、兼ねて此壮図に随行して其景況並びに千島の模様を委しく探りて、世間に報道せんとて自ら進みて、雪浪萬重の北洋を職務の為にものともせぬ、我が朝日新聞社員横川勇次氏を送らんと、朝未明に起出て、顔洗ふ間も心せはしく車を急せて向島へと向ふ、常にはあらぬ市中の賑はひ、三々五々勇ましげに語り合ふて、其方さして歩む人は皆大尉の行を送るの人なるべし、両国橋にさしかゝりしは午前七時三十分、早や橋の北側は人垣と立つどひ、川上はるかに見やりて、翠かすむ筑波の山も、大尉が高き誉にはけおされてなど口々いふ、百本杭より石原の河岸、車の輪も廻らぬほど雑沓たり、大尉は予が友露伴氏の実兄なり、また此... | 底本:「明治の文学 第13巻 饗庭篁村」筑摩書房
2003年(平成15年)4月25日初版第1刷発行
底本の親本:「饗庭篁村全集」春陽堂
1928(昭和3)年8月
初出:「東京朝日新聞」
1893(明治26)年3~4月
入力:斎藤由布子
校正:noriko saito
2008年7月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "047032",
"作品名": "隅田の春",
"作品名読み": "すみだのはる",
"ソート用読み": "すみたのはる",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「東京朝日新聞」1893(明治26)年3~4月",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-08-02T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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予は越後三条の生れなり。父は農と商を兼ねたり。伯父は春庵とて医師なり。余は父よりは伯父に愛せられて、幼きより手習学問のこと、皆な伯父の世話なりし。自ら言うは異な事なれど、予は物覚えよく、一を聞て二三は知るほどなりしゆえ、伯父はなお身を入れてこの子こそ穂垂という家の苗字を世に知らせ、またその生国としてこの地の名をも挙るものなれとて、いよいよ珍重して教えられ、人に逢えばその事を吹聴さるるに予も嬉しき事に思い、ますます学問に身を入れしゆえ、九歳の時に神童と言われ、十三の年に小学校の助教となれり。父の名誉、伯父の面目、予のためには三条の町の町幅も狭きようにて、この所ばかりか近郷の褒め草。ある時、県令学校を巡廻あり。予が講義を聴かれて「天晴... | 底本:「新潟県文学全集 第1巻 明治編」郷土出版社
1995(平成7)年10月26日発行
底本の親本:「明治文学全集26」筑摩書房
1981(昭和56)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:高田農業高校生産技術科流通経済コース
校正:小林繁雄
2006年7月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "045754",
"作品名": "良夜",
"作品名読み": "りょうや",
"ソート用読み": "りようや",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-09-25T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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明治二十五年の春、私は赤間関(今の下関)文関尋常小学校に入学した。たしか二年の修身の教科書に「九年母」という話が載っていた。田舎の子供が母から九年母を親戚に贈る使いを言いつけられて、途中風呂敷包を開けてみると九個ある、一個食べておいて、「八年母を差し上げます」と差し出したという話。私はなぜかその話が面白くて、今でもその挿図の子供の姿が眼に残っている。私は九年母が好きであった。味よりもあの香気が好きだったのである。
あれから三十年、私は父の死後、京都に落着くつもりで下鴨に廬を結んだ。名づけて守拙廬という。扁額は亡友本田蔭軒君の筆、刻は主人自刀である。少しばかりの空地に植える果樹の苗を数種取り寄せたが、なかに九年母三本を加えることを... | 底本:「「あまカラ」抄2」冨山房百科文庫、冨山房
1995(平成7)年12月6日第1刷発行
底本の親本:「あまカラ 8月号 第六十号」甘辛社
1956(昭和31)年8月5日発行
初出:「あまカラ 8月号 第六十号」甘辛社
1956(昭和31)年8月5日発行
入力:砂場清隆
校正:芝裕久
2019年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "059877",
"作品名": "九年母",
"作品名読み": "くねんぼ",
"ソート用読み": "くねんほ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「あまカラ 8月号 第六十号」甘辛社、1956(昭和31)年8月5日",
"分類番号": "NDC 596",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2019-12-02T00:00:00",
"最終更新日": "2019-11-24T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozo... |
純小説と通俗小説の限界が、戦後いよいよ曖昧になつて来た。これは日本に限つた現象ではないらしい。この現象は、いろいろな意味にとられるが、根本的には、純小説をしつかり支へてゐた個人主義、ないしは個人性が、それだけ崩れてきたのだとみられる。そしてそれだけ、小説がジャーナリスチックになり、ジャーナリズムに征服されたのだとみられる。
昨年のことだが、わたしは妙な経験をした。一人の文学青年(実はもう青年ではないが)が原稿を見てくれと云つて玄関に置いていつた。しばらくしてその青年から手紙が来て、先日の原稿を友達にみせたら、まだこれは純小説で、通俗小説になつてゐないから駄目だと批評された、自分もさう思ふ、自分はこれから大いに勉強して、りつぱな通... | 底本:「現代日本文學大系 54 片上伸 平林初之輔 青野季吉 宮本顯治 藏原惟人集」筑摩書房
1973(昭和48)年1月20日初版第1刷発行
1987(昭和62)年11月30日初版第12刷発行
入力:門田裕志
校正:富田倫生
2011年11月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "052214",
"作品名": "百万人のそして唯一人の文学",
"作品名読み": "ひゃくまんにんのそしてただひとりのぶんがく",
"ソート用読み": "ひやくまんにんのそしてたたひとりのふんかく",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 910",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2012-01-01T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-16T00:00:00",
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燃え上った十年、作家生活の火華は火華を産ンで、花火線香の最後に落ちる玉となって消えた夢野久作、その火華は、今十巻の全集となって、世に出ようとしている。
久作さんを知ったのは何時の頃からかは、はっきりしない。何でも幼い頃からで、産れながらに知っていたような気もする。
「夢野久作ってのが、頻りに探偵小説の様なもの――事実探偵小説の様なものであって、そん処そこらにある様な、単なる探偵小説とは、およそその類をことにしているのである。久作さんは、何んでも、彼でも、探偵小説にせずにはおかないと云った、熱と、力量は自分乍らも相当自身があっただけに、探偵小説なるものを芸術的に、文学的に、グウとレベルを引上げたのである。つまり、何処から見ても立派... | 底本:「「探偵」傑作選 幻の探偵雑誌9」ミ光文社文庫、光文社
2002(平成14)年1月20日初版1刷発行
初出:「月刊探偵」黒白書房
1936(昭和11)年5月号
入力:川山隆
校正:伊藤時也
2008年11月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "047604",
"作品名": "夢の如く出現した彼",
"作品名読み": "ゆめのごとくしゅつげんしたかれ",
"ソート用読み": "ゆめのことくしゆつけんしたかれ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「月刊探偵」黒白書房、1936(昭和11)年5月号",
"分類番号": "NDC 910",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-12-09T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL"... |
昔、ある北の国の山奥に一つの村がありました。その村に伊作、多助、太郎右衛門という三人の百姓がありました。三人の百姓は少しばかりの田を耕しながら、その合間に炭を焼いて三里ばかり離れた城下に売りに行くのを仕事にしておりました。
三人の百姓の生れた村というのは、それはそれは淋しい小さな村で、秋になると、山が一面に紅葉になるので、城下の人たちが紅葉を見に来るほか、何の取柄もないような村でありました。しかし百姓たちの村に入るところに大きな河が流れて、その河には、秋になると、岩名や山魚が沢山に泳いでいました。村の人たちは、みんな楽しそうに、元気で働いていました。
伊作、多助、太郎右衛門の三人は、ある秋の末に、いつものように背中に炭俵を三俵... | 底本:「日本児童文学名作集(下)」岩波文庫、岩波書店
1994(平成6)年3月16日第1刷発行
2001(平成13)年5月7日第12刷発行
底本の親本:「太陽と花園」精華書院
1921(大正10)年
初出:「婦人公論」
1920(大正9)年6月
入力:門田裕志
校正:Juki
2012年12月14日作成
2016年1月17日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "053182",
"作品名": "三人の百姓",
"作品名読み": "さんにんのひゃくしょう",
"ソート用読み": "さんにんのひやくしよう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「婦人公論」1920(大正9)年6月",
"分類番号": "NDC K913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2013-01-01T00:00:00",
"最終更新日": "2016-01-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aoz... |
佐藤一齋言志録凡一千三十四條。行于世。西郷南洲手抄其一百餘條。藏于家。余嘗遊鹿兒島而觀之。沙汰精確。旨義簡明。亦可以窺南洲之學識矣。嗚呼南洲夙抱勤王之志。致匪躬之節。間關崎嶇。死而復蘇。謀國而不謀身。身益困而人益信。言志録所謂。我執公情以行公事。天下無不服。南洲實行之矣。徳川氏之末造。怠惰成風。志氣衰弱。天厭幕府。將興維新之大業。南洲能率大軍夷叛亂。叱咜一聲。萬軍披靡。非得士心豈能如是乎。言志録所謂。因民義以激之。因民欲以趨之。則民忘其生而致其死。是可以一戰也。南洲實行之矣。夫南洲之得人心。立功業如彼。而晩節末路如此。可惜也。此編所載。毫無與道相背。後進之徒能讀之。可以進徳也。可以臨死而不畏也。余嘗聞。南洲之學術基於餘姚。及得此書。... | 底本:「西郷南洲遺訓」岩波文庫、岩波書店
1939(昭和14)年2月2日第1刷発行
1985(昭和60)年2月20日第26刷発行
底本の親本:「南洲手抄言志録」博聞社
1888(明治21)年5月17日発行
初出:「南洲手抄言志録」博聞社
1888(明治21)年5月17日発行
※「「褒」の「保」に代えて「丑」」は「デザイン差」と見て「衰」で入力しました。
入力:田中哲郎
校正:川山隆
2008年7月11日作成
2009年9月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランテ... | {
"作品ID": "048283",
"作品名": "南洲手抄言志録",
"作品名読み": "なんしゅうしゅしょうげんしろく",
"ソート用読み": "なんしゆうしゆしようけんしろく",
"副題": "02 南洲言志録手抄序",
"副題読み": "02 なんしゅうげんしろくしゅしょうじょ",
"原題": "",
"初出": "「南洲手抄言志録」1888(明治21)年5月17日",
"分類番号": "NDC 121",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-08-12T00:00:00",
"最終更新日": "2014-... |
一 勿認游惰以爲寛裕。勿認嚴刻以爲直諒。勿認私欲以爲志願。
〔譯〕游惰を認めて以て寛裕と爲すこと勿れ。嚴刻を認めて以て直諒と爲すこと勿れ。私欲を認めて以て志願と爲すこと勿れ。
二 毀譽得喪、眞是人生之雲霧、使人昏迷。一掃此雲霧、則天青日白。
〔譯〕毀譽得喪は、眞に是れ人生の雲霧、人をして昏迷せしむ。此の雲霧を一掃せば、則ち天青く日白し。
〔評〕徳川慶喜公は勤王の臣たり。幕吏の要する所となりて朝敵となる。猶南洲勤王の臣として終りを克くせざるごとし。公は罪を宥し位に敍せらる、南洲は永く反賊の名を蒙る、悲しいかな。(原漢文、下同)
三 唐虞之治、只是情一字。極而言之、萬物一體、不外於情之推。
〔譯〕唐虞の治は只是れ情の... | 底本:「西郷南洲遺訓」岩波文庫、岩波書店
1939(昭和14)年2月2日第1刷発行
1985(昭和60)年2月20日第26刷発行
底本の親本:「南洲手抄言志録」博聞社
1888(明治21)年5月17日発行
初出:「南洲手抄言志録」博聞社
1888(明治21)年5月17日発行
※「「褒」の「保」に代えて「丑」」は「デザイン差」と見て「衰」で入力しました。
※底本の末尾に添えられた「書後の辭」で、秋月種樹氏が漢文の評言を附したとある。
入力:田中哲郎
校正:川山隆
2008年7月14日作成
2009年9月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.ao... | {
"作品ID": "048284",
"作品名": "南洲手抄言志録",
"作品名読み": "なんしゅうしゅしょうげんしろく",
"ソート用読み": "なんしゆうしゆしようけんしろく",
"副題": "03 南洲手抄言志録",
"副題読み": "03 なんしゅうしゅしょうげんしろく",
"原題": "",
"初出": "「南洲手抄言志録」博文社、1888(明治21)年5月17日",
"分類番号": "NDC 121",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-08-12T00:00:00",
"最終更新日": "2014... |
〔設問〕
一 明治以前の日本の伝統美術で最も興味をもっているものは何か
二 その理由
芥川紗織
一、土偶
二、埴輪にはみられないプリミチーブな生命力――はげしく、生々しく、グロテスクなものを感じるからです。当時の人間の生活とどの様につながっているかを、現代的な立場から識りたいと思います。 | 底本:「現代人の眼 岡本太郎・滝口修造他」現代社
1956(昭和31)年11月20日発行
※この文章は、「現代作家は古典をどうみるか」と題したアンケートへの回答です。
※底本編集者によるアンケートの趣旨は省きました。
※〔設問〕は底本編集者によるものです。
入力:かな とよみ
校正:たけうち(み)
2018年4月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "059016",
"作品名": "現代作家は古典をどうみるか",
"作品名読み": "げんだいさっかはこてんをどうみるか",
"ソート用読み": "けんたいさつかはこてんをとうみるか",
"副題": "アンケート",
"副題読み": "アンケート",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 723",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2018-05-24T00:00:00",
"最終更新日": "2018-04-26T00:00:00",
"図書カードURL": "http... |
《民話を描く》この一年の間に随分沢山の日本の民話を読みあさりました。古くから語りつがれて来たおはなしの或るものはびっくりする程スケールが大きく、又或るものはカラリとした空想や笑いに満ちていて、その魅力にとても惹きつけられてしまいました。秋に銀座で民話の中のいろんなカミサマや、お姫様や、雲をつきあげるような巨人たちを描いて個展を開きました。古い神々の笑いを再び現代に湧き上がらせることが出来たら、と思いながら、そんな仕事をずっと続けています。(「芸術新潮」7巻1号、1956年1月) | 底本:「芥川紗織展」横須賀美術館、一宮市三岸節子記念美術館
2009(平成21)年2月
初出:「藝術新潮 第七卷 第一號」新潮社
1956(昭和31)年1月1日発行
※底本は横組みです。
※底本編集時に付された注記は省略しました。
※初出誌では「芥川沙織」名義で掲載され、「個展會場の芥川沙織」とキャプションが付いた本人写真が付されています。
入力:かな とよみ
校正:持田和踏
2022年4月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "059393",
"作品名": "「ぴ・い・ぷ・る」",
"作品名読み": "「ぴ・い・ぷ・る」",
"ソート用読み": "ひいふる",
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"初出": "「藝術新潮 第七卷 第一號」新潮社、1956(昭和31)年1月1日",
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"公開日": "2022-05-24T00:00:00",
"最終更新日": "2022-04-27T00:00:00",
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こと容姿に關しては私は恐ろしく小心なのでとても壯麗な美容院に一人で入つて行く勇氣がありません。私の家のすぐ近くの小じんまりしたパーマネント屋さんは、何時行つても他のお客樣に行き合うことがなく決して待たされたことがありませんので、恥かしがりの私も氣輕に時々出掛けます。美顏術や爪をみがいてもらつたことは生れてこの方一度もありませんので希望も註文もありません。
(也寸志氏夫人、畫家) | 底本:「婦人之友 50巻1号」婦人之友社
1956(昭和31)年1月
※国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/)で公開されている当該書籍画像に基づいて、作業しました。
※底本は旧字新仮名づかいです。なお促音は小書きではありません。
※表題は底本では、「美容院《びよういん》にのぞむこと」となっています。
入力:かな とよみ
校正:The Creative CAT
2021年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "059502",
"作品名": "美容院にのぞむこと",
"作品名読み": "びよういんにのぞむこと",
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"文字遣い種別": "旧字新仮名",
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雑誌の表紙は始めてです。何時もと同じ染色の方法で何時もと同じ人間の描き方をしました。乳房のある、片一方だけ黄色い翅をひろげた女が、青い空気の中で、眼をピカピカ光らせて立つています。何時の間にかクモの巣に引つかかつているのにも無頓著です。とにかく三つの色しか使えないので、絵具にはない、染料独特の強烈な色を対比させ、緊張感を出そうとしましたが、染料のしみ込んだ布の感じとともに、それが何処まで面白く印刷されるか、後は本が出来上るまで、手をこまねいて、運を天にまかせる外はありません。 | 底本:「新日本文学 第11巻第11号」新日本文学会
1956(昭和31)年11月1日発行
※底本は新字新仮名づかいです。なお促音が並につくられているのは、底本通りです。
入力:かな とよみ
校正:The Creative CAT
2021年4月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "059722",
"作品名": "表紙絵について",
"作品名読み": "ひょうしえについて",
"ソート用読み": "ひようしえについて",
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前にタマヨの絵を美術雑誌の原色版で見てそのまか不思議な色彩にひどく惹かれました。
それ以来私は何が何でもタマヨのファンになってしまいました。タマヨのよく使う発酵した様な異様な黄色や紫や桃色にひきつけられたのです。今度のメキシコ展で民芸品の部屋に足をふみ入れると私は“これだ。タマヨの色は”と思いました。民芸品の切り紙も人形も皆タマヨのあの魅力的な紫色や桃色なのでした。これはメキシコの現代絵画のすべてに云えることなのですが、何千年も昔の土偶の形態も民芸品のネンドの人形の色も皆現代絵画の中にそのまま生きていて彼等の激しい力と情熱を語る強力な言葉になって居るのです。
全くメキシコの絵画は彼等の言葉で彼等の問題を精一杯に叫んで居ます。そ... | 底本:「芥川紗織展」横須賀美術館、一宮市三岸節子記念美術館
2009(平成21)年2月
初出:「美術批評」美術出版社
1955(昭和30)年10月1日発行
※底本は横組みです。
入力:かな とよみ
校正:たけうち(み)
2018年4月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "059022",
"作品名": "民芸品の部屋で",
"作品名読み": "みんげいひんのへやで",
"ソート用読み": "みんけいひんのへやて",
"副題": "我々はメキシコ美術をこうみる",
"副題読み": "われわれはメキシコびじゅつをこうみる",
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"初出": "「美術批評」美術出版社、1955(昭和30)年10月1日",
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"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2018-05-24T00:00:00",
"最終更新日": "2018-04-26T... |
突然、すこしおそろしい音がした。それから、どたんばたんといろ〳〵の物音が矢つぎ早にしたかと思ふと、しいんとなつた。
はじめにした声は、俊一がその弟を叱りつけたのである。何か気に障つたことがあつたのだらう。弟と向ひ合つてゐて、俊一は突然怒鳴つた。そして、ちよつと仁王様に似たやうな顔付になつたが、その自分の怒つた顔に自信がないために、どこか抜けたところがありはしないかといふ怖れに駆られた、といつた様子でつと立上り、ばり〳〵と襖を押し開けて奥の間の自分の室へ行かうとした。何か重大な国際会議の席上から脱退する悲壮な日本代表のやうな調子であつた。ばりつと風を巻いて室から出ようとする時、壁に吊してあつた瓢箪が落ちた。勿論、俊一は、あつといふ... | 底本:「新潮 第百四巻第七号」新潮社
2007(平成19)年7月1日
※本文末の編集部注は省略しました。
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
入力:フクポー
校正:The Creative CAT
2020年10月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "060159",
"作品名": "四人",
"作品名読み": "よにん",
"ソート用読み": "よにん",
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"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
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"公開日": "2020-11-08T00:00:00",
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子供の時の愛読書は「西遊記」が第一である。これ等は今日でも僕の愛読書である。比喩談としてこれほどの傑作は、西洋には一つもないであらうと思ふ。名高いバンヤンの「天路歴程」なども到底この「西遊記」の敵ではない。それから「水滸伝」も愛読書の一つである。これも今以て愛読してゐる。一時は「水滸伝」の中の一百八人の豪傑の名前を悉く諳記してゐたことがある。その時分でも押川春浪氏の冒険小説や何かよりもこの「水滸伝」だの「西遊記」だのといふ方が遥かに僕に面白かつた。
中学へ入学前から徳富蘆花氏の「自然と人生」や樗牛の「平家雑感」や小島烏水氏の「日本山水論」を愛読した。同時に、夏目さんの「猫」や鏡花氏の「風流線」や緑雨の「あられ酒」を愛読した。だか... | 底本:「芥川龍之介全集 第六巻」岩波書店
1996(平成8)年4月8日発行
初出:「文章倶楽部 第5年第8号」
1920(大正9)年8月1日発行
※初出誌に、顔写真と「曇天の水動かずよ芹の中」の句の筆跡写真と共に掲載された。
入力:砂場清隆
校正:高柳典子
2006年2月21日作成
2006年4月5日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "004872",
"作品名": "愛読書の印象",
"作品名読み": "あいどくしょのいんしょう",
"ソート用読み": "あいとくしよのいんしよう",
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"初出": "「文章倶楽部 第5年第8号」1920(大正9)年8月1日",
"分類番号": "NDC 019 914",
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"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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一
信子は女子大学にゐた時から、才媛の名声を担つてゐた。彼女が早晩作家として文壇に打つて出る事は、殆誰も疑はなかつた。中には彼女が在学中、既に三百何枚かの自叙伝体小説を書き上げたなどと吹聴して歩くものもあつた。が、学校を卒業して見ると、まだ女学校も出てゐない妹の照子と彼女とを抱へて、後家を立て通して来た母の手前も、さうは我儘を云はれない、複雑な事情もないではなかつた。そこで彼女は創作を始める前に、まづ世間の習慣通り、縁談からきめてかかるべく余儀なくされた。
彼女には俊吉と云ふ従兄があつた。彼は当時まだ大学の文科に籍を置いてゐたが、やはり将来は作家仲間に身を投ずる意志があるらしかつた。信子はこの従兄の大学生と、昔か... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:野口英司
1998年5月20日公開
2004年2月8日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "000016",
"作品名": "秋",
"作品名読み": "あき",
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"初出": "「中央公論」1920(大正9)年4月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
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"公開日": "1998-05-20T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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目次
紫天鵞絨/桐/薔薇/客中恋/若人/砂上遅日
紫天鵞絨
やはらかく深紫の天鵞絨をなづる心地か春の暮れゆく
いそいそと燕もまへりあたゝかく郵便馬車をぬらす春雨
ほの赤く岐阜提灯もともりけり「二つ巴」の春の夕ぐれ(明治座三月狂言)
戯奴の紅き上衣に埃の香かすかにしみて春はくれにけり
なやましく春は暮れゆく踊り子の金紗の裾に春は暮れゆく
春漏の水のひゞきかあるはまた舞姫のうつとほき鼓か(京都旅情)
片恋のわが世さみしくヒヤシンスうすむらさきににほひそめけり
恋すればうら若ければかばかりに薔薇の香にもなみだするらむ
麦畑の萌黄天鵞絨芥子の花五月の空にそよ風のふく
五月来ぬわすれな草もわが恋も今しほのかににほひづ... | 底本:「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店
1995(平成7)年11月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:本木まゆみ
1999年7月18日公開
2004年2月9日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000178",
"作品名": "芥川竜之介歌集",
"作品名読み": "あくたがわりゅうのすけかしゅう",
"ソート用読み": "あくたかわりゆうのすけかしゆう",
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"分類番号": "NDC 911",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-07-18T00:00:00",
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一
支那の上海の或町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い印度人の婆さんが一人、商人らしい一人の亜米利加人と何か頻に話し合つてゐました。
「実は今度もお婆さんに、占ひを頼みに来たのだがね、――」
亜米利加人はさう言ひながら、新しい煙草へ火をつけました。
「占ひですか? 占ひは当分見ないことにしましたよ。」
婆さんは嘲るやうに、じろりと相手の顔を見ました。
「この頃は折角見て上げても、御礼さへ碌にしない人が、多くなつて来ましたからね。」
「そりや勿論御礼をするよ。」
亜米利加人は惜しげもなく、三百弗の小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。
「差当りこれだけ取つて置くさ。もしお婆さんの占ひが当れば、その... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月11日公開
2004年2月8日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000015",
"作品名": "アグニの神",
"作品名読み": "アグニのかみ",
"ソート用読み": "あくにのかみ",
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"初出": "「赤い鳥」1921(大正10)年1、2月",
"分類番号": "NDC K913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-12-11T00:00:00",
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"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.j... |
一
支那の上海の或町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い印度人の婆さんが一人、商人らしい一人の亜米利加人と何か頻に話し合っていました。
「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね、――」
亜米利加人はそう言いながら、新しい巻煙草へ火をつけました。
「占いですか? 占いは当分見ないことにしましたよ」
婆さんは嘲るように、じろりと相手の顔を見ました。
「この頃は折角見て上げても、御礼さえ碌にしない人が、多くなって来ましたからね」
「そりゃ勿論御礼をするよ」
亜米利加人は惜しげもなく、三百弗の小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。
「差当りこれだけ取って置くさ。もしお婆さんの占いが当れば、その時は別... | 底本:「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社
1968(昭和43)年11月15日発行
1989(平成元)年5月30日46刷
入力:蒋龍
校正:noriko saito
2005年1月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "043014",
"作品名": "アグニの神",
"作品名読み": "アグニのかみ",
"ソート用読み": "あくにのかみ",
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"初出": "「赤い鳥」1921(大正10)年1月、2月",
"分類番号": "NDC K913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"公開日": "2005-02-06T00:00:00",
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伴天連うるがんの眼には、外の人の見えないものまでも見えたさうである。殊に、人間を誘惑に来る地獄の悪魔の姿などは、ありありと形が見えたと云ふ、――うるがんの青い瞳を見たものは、誰でもさう云ふ事を信じてゐたらしい。少くとも、南蛮寺の泥烏須如来を礼拝する奉教人の間には、それが疑ふ余地のない事実だつたと云ふ事である。
古写本の伝ふる所によれば、うるがんは織田信長の前で、自分が京都の町で見た悪魔の容子を物語つた。それは人間の顔と蝙蝠の翼と山羊の脚とを備へた、奇怪な小さい動物である。うるがんはこの悪魔が、或は塔の九輪の上に手を拍つて踊り、或は四つ足門の屋根の下に日の光を恐れて蹲る恐しい姿を度々見た。いやそればかりではない。或時は山の法師の背... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "003804",
"作品名": "悪魔",
"作品名読み": "あくま",
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"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-10T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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1
浅草の仁王門の中に吊った、火のともらない大提灯。提灯は次第に上へあがり、雑沓した仲店を見渡すようになる。ただし大提灯の下部だけは消え失せない。門の前に飛びかう無数の鳩。
2
雷門から縦に見た仲店。正面にはるかに仁王門が見える。樹木は皆枯れ木ばかり。
3
仲店の片側。外套を着た男が一人、十二三歳の少年と一しょにぶらぶら仲店を歩いている。少年は父親の手を離れ、時々玩具屋の前に立ち止まったりする。父親は勿論こう云う少年を時々叱ったりしないことはない。が、稀には彼自身も少年のいることを忘れたように帽子屋の飾り窓などを眺めている。
4
こ... | 底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年4月20日公開
2004年3月7日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000021",
"作品名": "浅草公園",
"作品名読み": "あさくさこうえん",
"ソート用読み": "あさくさこうえん",
"副題": "或シナリオ",
"副題読み": "あるシナリオ",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 912",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-02-01T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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自分は菊池寛と一しょにいて、気づまりを感じた事は一度もない。と同時に退屈した覚えも皆無である。菊池となら一日ぶら〳〵していても、飽きるような事はなかろうと思う。(尤も菊池は飽きるかも知れないが、)それと云うのは、菊池と一しょにいると、何時も兄貴と一しょにいるような心もちがする。こっちの善い所は勿論了解してくれるし、よしんば悪い所を出しても同情してくれそうな心もちがする。又実際、過去の記憶に照して見ても、そうでなかった事は一度もない。唯、この弟たるべき自分が、時々向うの好意にもたれかゝって、あるまじき勝手な熱を吹く事もあるが、それさえ自分に云わせると、兄貴らしい気がすればこそである。
この兄貴らしい心もちは、勿論一部は菊池の学殖が... | 底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社
1995(平成7)年1月10日第1刷発行
底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店
1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月初版発行
入力:向井樹里
校正:門田裕志
2005年2月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "043361",
"作品名": "兄貴のような心持",
"作品名読み": "あにきのようなこころもち",
"ソート用読み": "あにきのようなこころもち",
"副題": "――菊池寛氏の印象――",
"副題読み": "――きくちかんしのいんしょう――",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2005-03-11T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "ht... |
以下は小説と呼ぶ種類のものではないかも知れない。さうかと云つて、何と呼ぶべきかは自分も亦不案内である。自分は唯、四五年前の自分とその周囲とを、出来る丈こだはらずに、ありのまま書いて見た。従つて自分、或は自分たちの生活やその心もちに興味のない読者には、面白くあるまいと云ふ懸念もある。が、この懸念はそれを押しつめて行けば、結局どの小説も同じ事だから、そこに意を安んじて、発表する事にした。序ながらありのままと云つても、事実の配列は必しもありのままではない。唯事実そのものだけが、大抵ありのままだと云ふ事をつけ加へて置く。
一
十一月の或晴れた朝である。久しぶりに窮屈な制服を着て、学校へ行つたら、正門前でやはり制服を着た... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:小浜真由美
1998年6月22日公開
2005年11月12日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "000017",
"作品名": "あの頃の自分の事",
"作品名読み": "あのころのじぶんのこと",
"ソート用読み": "あのころのしふんのこと",
"副題": "",
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"初出": "「中央公論」1919(大正8)年1月",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-06-22T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.a... |
保吉はずつと以前からこの店の主人を見知つてゐる。
ずつと以前から、――或はあの海軍の学校へ赴任した当日だつたかも知れない。彼はふとこの店へマツチを一つ買ひにはひつた。店には小さい飾り窓があり、窓の中には大将旗を掲げた軍艦三笠の模型のまはりにキユラソオの壜だのココアの罐だの干し葡萄の箱だのが並べてある。が、軒先に「たばこ」と抜いた赤塗りの看板が出てゐるから、勿論マツチも売らない筈はない。彼は店を覗きこみながら、「マツチを一つくれ給へ」と云つた。店先には高い勘定台の後ろに若い眇の男が一人、つまらなさうに佇んでゐる。それが彼の顔を見ると、算盤を竪に構へたまま、にこりともせずに返事をした。
「これをお持ちなさい。生憎マツチを切らしました... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月16日公開
2004年2月12日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "000014",
"作品名": "あばばばば",
"作品名読み": "あばばばば",
"ソート用読み": "あはははは",
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"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「中央公論」1923(大正12)年12月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
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"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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クロオド・フアレエルの作品を始めて日本に紹介したのは多分堀口大学氏であらう。僕はもう六七年前に「三田文学」の為に同氏の訳した「キツネ」艦の話を覚えてゐる。
「キツネ」艦の話は勿論、フアレエルの作品に染みてゐるものは東洋の鴉片の煙である。僕はこの頃矢野目源一氏の訳した、やはりフアレエルの「静寂の外に」を読み、もう一度この煙に触れることになつた。尤もこの「静寂の外に」は芳しい鴉片の匂の外にも死人の匂をも漂はせてゐる。「ポオとボオドレエル」兄弟商会の造つた死人の匂をも漂はせてゐる。
「おや、聞えたぞ。いや、空耳だらう。己にはわからない。死人の土地から洩れて来るにしてはあんまり音が大き過ぎる。一体ここで物の割れる音なんかするわけがない。泥... | 底本:「芥川龍之介全集 第十三巻」岩波書店
1996(平成8)年11月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:林 幸雄
2002年1月26日公開
2004年3月17日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "001138",
"作品名": "鴉片",
"作品名読み": "アヘン",
"ソート用読み": "あへん",
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"初出": "「世界」1926(大正15)年11月",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2002-01-26T00:00:00",
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僕はこの原稿を発表する可否は勿論、発表する時や機関も君に一任したいと思つてゐる。
君はこの原稿の中に出て来る大抵の人物を知つてゐるだらう。しかし僕は発表するとしても、インデキスをつけずに貰ひたいと思つてゐる。
僕は今最も不幸な幸福の中に暮らしてゐる。しかし不思議にも後悔してゐない。唯僕の如き悪夫、悪子、悪親を持つたものたちを如何にも気の毒に感じてゐる。ではさやうなら。僕はこの原稿の中では少くとも意識的には自己弁護をしなかつたつもりだ。
最後に僕のこの原稿を特に君に托するのは君の恐らくは誰よりも僕を知つてゐると思ふからだ。(都会人と云ふ僕の皮を剥ぎさへすれば)どうかこの原稿の中に僕の阿呆さ加減を笑つてくれ給へ。
昭和二年... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:細渕紀子
1998年4月23日公開
2005年12月2日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000019",
"作品名": "或阿呆の一生",
"作品名読み": "あるあほうのいっしょう",
"ソート用読み": "あるあほうのいつしよう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「改造」1927(昭和2)年10月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-04-23T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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発端
肥後の細川家の家中に、田岡甚太夫と云う侍がいた。これは以前日向の伊藤家の浪人であったが、当時細川家の番頭に陞っていた内藤三左衛門の推薦で、新知百五十石に召し出されたのであった。
ところが寛文七年の春、家中の武芸の仕合があった時、彼は表芸の槍術で、相手になった侍を六人まで突き倒した。その仕合には、越中守綱利自身も、老職一同と共に臨んでいたが、余り甚太夫の槍が見事なので、さらに剣術の仕合をも所望した。甚太夫は竹刀を執って、また三人の侍を打ち据えた。四人目には家中の若侍に、新陰流の剣術を指南している瀬沼兵衛が相手になった。甚太夫は指南番の面目を思って、兵衛に勝を譲ろうと思った。が、勝を譲ったと云う事が、心あるものには分るように... | 底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年12月1日第1刷発行
1996(平成8)年4月1日第8刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第二巻」筑摩書房
1971(昭和46)年4月5日初版第1刷発行
初出:「雄弁」
1920(大正9)年5月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月12日公開
2017年6月4日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000073",
"作品名": "或敵打の話",
"作品名読み": "あるかたきうちのはなし",
"ソート用読み": "あるかたきうちのはなし",
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"初出": "「雄弁」1920(大正9)年5月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-12T00:00:00",
"最終更新日": "2017-06-04T00:00:00",
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誰もまだ自殺者自身の心理をありのままに書いたものはない。それは自殺者の自尊心や或は彼自身に対する心理的興味の不足によるものであらう。僕は君に送る最後の手紙の中に、はつきりこの心理を伝へたいと思つてゐる。尤も僕の自殺する動機は特に君に伝へずとも善い。レニエは彼の短篇の中に或自殺者を描いてゐる。この短篇の主人公は何の為に自殺するかを彼自身も知つてゐない。君は新聞の三面記事などに生活難とか、病苦とか、或は又精神的苦痛とか、いろいろの自殺の動機を発見するであらう。しかし僕の経験によれば、それは動機の全部ではない。のみならず大抵は動機に至る道程を示してゐるだけである。自殺者は大抵レニエの描いたやうに何の為に自殺するかを知らないであらう。それ... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:小浜真由美
1998年4月20日公開
2004年2月16日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000020",
"作品名": "或旧友へ送る手記",
"作品名読み": "あるきゅうゆうへおくるしゅき",
"ソート用読み": "あるきゆうゆうへおくるしゆき",
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"副題読み": "",
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"初出": "「東京日日新聞」1927(昭和2)年7月",
"分類番号": "NDC 916",
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"公開日": "1998-04-20T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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彼は若い社会主義者だつた。或小官吏だつた彼の父はそのためにかれを勘当しようとした。が、彼は屈しなかつた。それは彼の情熱が烈しかつたためでもあり、又一つには彼の友だちが彼を激励したためでもあつた。
彼等は或団体をつくり、十ペエジばかりのパンフレツトを出したり、演説会を開いたりしてゐた。彼も勿論彼等の会合へ絶えず顔を出した上、時々そのパンフレツトへ彼の論文を発表した。彼の論文は彼等以外に誰も余り読まないらしかつた。しかし彼はその中の一篇、――「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇に多少の自信を抱いてゐた。それは緻密な思索はないにしても、詩的な情熱に富んだものだつた。
そのうちに彼は学校を出、或雑誌社へ勤めることになつた。けれども彼等の会合... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "003827",
"作品名": "或社会主義者",
"作品名読み": "あるしゃかいしゅぎしゃ",
"ソート用読み": "あるしやかいしゆきしや",
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"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-10T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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立てきった障子にはうららかな日の光がさして、嵯峨たる老木の梅の影が、何間かの明みを、右の端から左の端まで画の如く鮮に領している。元浅野内匠頭家来、当時細川家に御預り中の大石内蔵助良雄は、その障子を後にして、端然と膝を重ねたまま、さっきから書見に余念がない。書物は恐らく、細川家の家臣の一人が借してくれた三国誌の中の一冊であろう。
九人一つ座敷にいる中で、片岡源五右衛門は、今し方厠へ立った。早水藤左衛門は、下の間へ話しに行って、未にここへ帰らない。あとには、吉田忠左衛門、原惣右衛門、間瀬久太夫、小野寺十内、堀部弥兵衛、間喜兵衛の六人が、障子にさしている日影も忘れたように、あるいは書見に耽ったり、あるいは消息を認めたりしている。その六... | 底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年10月28日第1刷発行
1996(平成8)年7月15日第11刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:野口英司
校正:もりみつじゅんじ
1997年11月17日公開
2004年3月7日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000122",
"作品名": "或日の大石内蔵助",
"作品名読み": "あるひのおおいしくらのすけ",
"ソート用読み": "あるひのおおいしくらのすけ",
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"初出": "「中央公論」1917(大正6)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1997-11-17T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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ある婦人雑誌社の面会室。
主筆 でっぷり肥った四十前後の紳士。
堀川保吉 主筆の肥っているだけに痩せた上にも痩せて見える三十前後の、――ちょっと一口には形容出来ない。が、とにかく紳士と呼ぶのに躊躇することだけは事実である。
主筆 今度は一つうちの雑誌に小説を書いては頂けないでしょうか? どうもこの頃は読者も高級になっていますし、在来の恋愛小説には満足しないようになっていますから、……もっと深い人間性に根ざした、真面目な恋愛小説を書いて頂きたいのです。
保吉 それは書きますよ。実はこの頃婦人雑誌に書きたいと思っている小説があるのです。
主筆 そうですか? それは結構です。もし書いて頂ければ、大いに新聞に広告しますよ。「堀川... | 底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月8日公開
2004年3月10日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000129",
"作品名": "或恋愛小説",
"作品名読み": "あるれんあいしょうせつ",
"ソート用読み": "あるれんあいしようせつ",
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"原題": "",
"初出": "「婦人グラフ」1924(大正13)年4月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-08T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.ao... |
一
或声 お前は俺の思惑とは全然違つた人間だつた。
僕 それは僕の責任ではない。
或声 しかしお前はその誤解にお前自身も協力してゐる。
僕 僕は一度も協力したことはない。
或声 しかしお前は風流を愛した、――或は愛したやうに装つたらう。
僕 僕は風流を愛してゐる。
或声 お前はどちらかを愛してゐる? 風流か? それとも一人の女か?
僕 僕はどちらも愛してゐる。
或声 (冷笑)それを矛盾とは思はないと見えるな。
僕 誰が矛盾と思ふものか? 一人の女を愛するものは古瀬戸の茶碗を愛さないかも知れない。しかしそれは古瀬戸の茶碗を愛する感覚を持たないからだ。
或声 風流人はどちらかを選ばなければならぬ。
僕 僕は生憎風流人よ... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:野口英司
1998年3月23日公開
2004年2月17日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000018",
"作品名": "闇中問答",
"作品名読み": "あんちゅうもんどう",
"ソート用読み": "あんちゆうもんとう",
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"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「文藝春秋」1927(昭和2)年9月",
"分類番号": "NDC 913 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-03-24T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozor... |
一 古今実物語
一
大阪の画工北璿の著はせる古今実物語と云ふ書あり。前後四巻、作者の筆に成れる揷画を交ふ。格別稀覯書にはあらざれども、聊か風変りの趣あれば、そのあらましを紹介すべし。
古今実物語は奇談二十一篇を収む。その又奇談は怪談めきたれども、実は少しも怪談ならず。たとへば「幽霊二月堂の牛王をおそるる事」を見よ。
「今西村に兵右衛門と云へる有徳なる百姓ありけるが、かの家にめし使ふ女、みめかたち人にすぐれ、心ざまもやさしかりければ、主の兵右衛門おりおり忍びかよひける。此主が女房、妬ふかき者なるが、此事をもれ聞きて瞋恚のほむらに胸をこがし、奴をひそかにまねき、『かの女を殺すべし、よく仕了せなば金銀あまたとらすべし』と云ひければ... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
2010年10月30日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "003767",
"作品名": "案頭の書",
"作品名読み": "あんとうのしょ",
"ソート用読み": "あんとうのしよ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-10T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3... |
或木曜日の晩、漱石先生の処へ遊びに行っていたら、何かの拍子に赤木桁平が頻に蛇笏を褒めはじめた。当時の僕は十七字などを並べたことのない人間だった。勿論蛇笏の名も知らなかった。が、そう云う偉い人を知らずにいるのは不本意だったから、その飯田蛇笏なるものの作句を二つ三つ尋ねて見た。赤木は即座に妙な句ばかりつづけさまに諳誦した。しかし僕は赤木のように、うまいとも何とも思わなかった。正直に又「つまらんね」とも云った。すると何ごとにもムキになる赤木は「君には俳句はわからん」と忽ち僕を撲滅した。
丁度やはりその前後にちょっと「ホトトギス」を覗いて見たら、虚子先生も滔滔と蛇笏に敬意を表していた。句もいくつか抜いてあった。僕の蛇笏に対する評価はこの... | 底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社
1995(平成7)年1月10日第1刷発行
底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店
1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月発行
入力:向井樹里
校正:砂場清隆
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "043362",
"作品名": "飯田蛇笏",
"作品名読み": "いいだだこつ",
"ソート用読み": "いいたたこつ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 911 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-03-10T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/car... |
僕等人間は一事件の為に容易に自殺などするものではない。僕は過去の生活の総決算の為に自殺するのである。しかしその中でも大事件だつたのは僕が二十九歳の時に秀夫人と罪を犯したことである。僕は罪を犯したことに良心の呵責は感じてゐない。唯相手を選ばなかつた為に(秀夫人の利己主義や動物的本能は実に甚しいものである。)僕の生存に不利を生じたことを少からず後悔してゐる。なほ又僕と恋愛関係に落ちた女性は秀夫人ばかりではない。しかし僕は三十歳以後に新たに情人をつくつたことはなかつた。これも道徳的につくらなかつたのではない。唯情人をつくることの利害を打算した為である。(しかし恋愛を感じなかつた訣ではない。僕はその時に「越し人」「相聞」等の抒情詩を作り、... | 底本:「芥川龍之介全集 第二十三巻」岩波書店
1998(平成10)年1月29日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:土屋隆
2008年12月11日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "016034",
"作品名": "遺書",
"作品名読み": "いしょ",
"ソート用読み": "いしよ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 916",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2009-07-24T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card16034.html"... |
イズムを持つ必要があるかどうか。かう云ふ問題が出たのですが、実を云ふと、私は生憎この問題に大分関係のありさうな岩野泡鳴氏の論文なるものを読んでゐません。だからそれに対する私の答も、幾分新潮記者なり読者なりの考と、焦点が合はないだらうと思ひます。
実を云ふとこの問題の性質が、私にはよくのみこめません。イズムと云ふ意味や必要と云ふ意味が、考へ次第でどうにでも曲げられさうです。又それを常識で一通りの解釈をしても、イズムを持つと云ふ事がどう云ふ事か、それもいろいろにこじつけられるでせう。
それを差当り、我我が皆ロマンテイケルとかナトウラリストとかになる必要があるかと云ふ、通俗な意味に解釈すれば、勿論そんな必要はありません。と云ふよりも... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "003750",
"作品名": "イズムと云ふ語の意味次第",
"作品名読み": "イズムというごのいみしだい",
"ソート用読み": "いすむというこのいみしたい",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-10T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.j... |
僕は一体冬はすきだから十一月十二月皆好きだ。好きといふのは、東京にゐると十二月頃の自然もいいし、また町の容子もいい。自然の方のいいといふのは、かういふ風に僕は郊外に住んでゐるから余計そんな感じがするのだが、十一月の末から十二月の初めにかけて、夜晩く外からなんど帰つて来ると、かう何ともしれぬ物の臭が立ち籠めてゐる。それは落葉のにほひだか、霧のにほひだか、花の枯れるにほひだか、果実の腐れるにほひだか、何んだかわからないが、まあいいにほひがするのだ。そして寝て起きると木の間が透いてゐる。葉が落ち散つたあとの木の間が朗かに明くなつてゐる。それに此処らは百舌鳥がくる。鵯がくる。たまに鶺鴒がくることもある。田端の音無川のあたりには冬になると何... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "003748",
"作品名": "一番気乗のする時",
"作品名読み": "いちばんきのりのするとき",
"ソート用読み": "いちはんきのりのするとき",
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"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-10T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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「何しろこの頃は油断がならない。和田さえ芸者を知っているんだから。」
藤井と云う弁護士は、老酒の盃を干してから、大仰に一同の顔を見まわした。円卓のまわりを囲んでいるのは同じ学校の寄宿舎にいた、我々六人の中年者である。場所は日比谷の陶陶亭の二階、時は六月のある雨の夜、――勿論藤井のこういったのは、もうそろそろ我々の顔にも、酔色の見え出した時分である。
「僕はそいつを見せつけられた時には、実際今昔の感に堪えなかったね。――」
藤井は面白そうに弁じ続けた。
「医科の和田といった日には、柔道の選手で、賄征伐の大将で、リヴィングストンの崇拝家で、寒中一重物で通した男で、――一言にいえば豪傑だったじゃないか? それが君、芸者を知っているんだ... | 底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月10日公開
2004年3月8日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000057",
"作品名": "一夕話",
"作品名読み": "いっせきわ",
"ソート用読み": "いつせきわ",
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"初出": "「サンデー毎日」1922(大正11)年7月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"公開日": "1999-01-10T00:00:00",
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拝啓。小生は、元来新聞の編輯に無経験なるものに御座候へども文芸上の作品は文芸欄に載るものと心得居り候。然るに四月十三日の時事新報(静岡版)は文芸上の作品を文芸欄以外に掲げ居り候。それは「けふの自習課題」と申すものに之有候。
小学四年。さくらの花はどんなくみたてになつてゐますか?
小学五年。花崗岩はどんな鉱物から出来てゐますか?
小学六年。海藻の効用をのべなさい。
これは勿論詩と存じ候。殊に桜の花の「くみたて」などと申す言葉は稚拙の妙言ふべからず候。何か編輯上の手違ひとは存じ候へども、爾来かかる作品は文芸欄へお収め下され度、切望の至りに堪へず候。右差し出がましき次第ながら御注意までに申し上げ候。頓首。
四月十三日 ... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "003761",
"作品名": "伊東から",
"作品名読み": "いとうから",
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秀林院様(細川越中守忠興の夫人、秀林院殿華屋宗玉大姉はその法諡なり)のお果てなされ候次第のこと。
一、石田治部少の乱の年、即ち慶長五年七月十日、わたくし父魚屋清左衛門、大阪玉造のお屋敷へ参り、「かなりや」十羽、秀林院様へ献上仕り候。秀林院様はよろづ南蛮渡りをお好み遊ばされ候間、おん悦び斜めならず、わたくしも面目を施し候。尤も御所持の御什器のうちには贋物も数かず有之、この「かなりや」ほど確かなる品は一つも御所持御座なく候。その節父の申し候は、涼風の立ち次第秀林院様へお暇を願ひ、嫁入り致させ候べしとのことに御座候。わたくしももはや三年あまり、御奉公致し居り候へども、秀林院様は少しもお優しきところ無之、賢女ぶらるることを第一となされ候... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月16日公開
2004年2月17日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000058",
"作品名": "糸女覚え書",
"作品名読み": "いとじょおぼえがき",
"ソート用読み": "いとしよおほえかき",
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"初出": "「中央公論」1924(大正13)年1月",
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犬養君の作品は大抵読んでいるつもりである。その又僕の読んだ作品は何れも手を抜いたところはない。どれも皆丹念に出来上っている。若し欠点を挙げるとすれば余り丹念すぎる為に暗示する力を欠き易い事であろう。
それから又犬養君の作品はどれも皆柔かに美しいものである。こう云う柔かい美しさは一寸他の作家達には発見出来ない。僕はそこに若々しい一本の柳に似た感じを受けている。
いつか僕は仕事をしかけた犬養君に会った事があった。その時僕の見た犬養君の顔は(若し失礼でないとすれば)女人と交った後のようだった。僕は犬養君を思い出す度にかならずこの顔を思い出している。同時に又犬養君の作品の如何にも丹念に出来上っているのも偶然ではないと思っている。 | 底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社
1995(平成7)年1月10日第1刷発行
底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店
1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月発行
入力:向井樹里
校正:砂場清隆
2007年2月12日作成
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"作品ID": "043363",
"作品名": "犬養君に就いて",
"作品名読み": "いぬかいくんについて",
"ソート用読み": "いぬかいくんについて",
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"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"公開日": "2007-03-13T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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いく子さんに献ず
一
昔、大和の国葛城山の麓に、髪長彦という若い木樵が住んでいました。これは顔かたちが女のようにやさしくって、その上髪までも女のように長かったものですから、こういう名前をつけられていたのです。
髪長彦は、大そう笛が上手でしたから、山へ木を伐りに行く時でも、仕事の合い間合い間には、腰にさしている笛を出して、独りでその音を楽しんでいました。するとまた不思議なことには、どんな鳥獣や草木でも、笛の面白さはわかるのでしょう。髪長彦がそれを吹き出すと、草はなびき、木はそよぎ、鳥や獣はまわりへ来て、じっとしまいまで聞いていました。
ところがある日のこと、髪長彦はいつもの通り、とある大木の根がたに腰... | 底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年10月28日第1刷発行
1996(平成8)年7月15日第11刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月7日公開
2004年3月8日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000056",
"作品名": "犬と笛",
"作品名読み": "いぬとふえ",
"ソート用読み": "いぬとふえ",
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"初出": "「赤い鳥」1919(大正8)年1、2月",
"分類番号": "NDC K913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-12-07T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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元慶の末か、仁和の始にあつた話であらう。どちらにしても時代はさして、この話に大事な役を、勤めてゐない。読者は唯、平安朝と云ふ、遠い昔が背景になつてゐると云ふ事を、知つてさへゐてくれれば、よいのである。――その頃、摂政藤原基経に仕へてゐる侍の中に、某と云ふ五位があつた。
これも、某と書かずに、何の誰と、ちやんと姓名を明にしたいのであるが、生憎旧記には、それが伝はつてゐない。恐らくは、実際、伝はる資格がない程、平凡な男だつたのであらう。一体旧記の著者などと云ふ者は、平凡な人間や話に、余り興味を持たなかつたらしい。この点で、彼等と、日本の自然派の作家とは、大分ちがふ。王朝時代の小説家は、存外、閑人でない。――兎に角、摂政藤原基経に仕へ... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
初出:「新小説」
1916(大正5)年9月
入力:j.utiyama
校正:吉田亜津美
1999年5月29日公開
2013年4月28日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000055",
"作品名": "芋粥",
"作品名読み": "いもがゆ",
"ソート用読み": "いもかゆ",
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"副題読み": "",
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"初出": "「新小説」1916(大正5)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-05-29T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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何でも秋の夜更けだつた。
僕は岩野泡鳴氏と一しよに、巣鴨行の電車に乗つてゐた。泡鳴氏は昂然と洋傘の柄にマントの肘をかけて、例の如く声高に西洋草花の栽培法だの氏が自得の健胃法だのをいろいろ僕に話してくれた。
その内にどう云ふ拍子だつたか、話題が当時評判だつた或小説の売れ行きに落ちた。すると泡鳴氏は傍若無人に、
「しかし君、新進作家とか何とか云つたつて、そんなに本は売れやしないだらう。僕の本は大抵――部売れるが、君なんぞは一体何部位売れる?」と云つた。
僕は聊か恐縮しながら、止むを得ず「傀儡師」の売れ高を答へた。
「皆そんなものかね?」
泡鳴氏は更に追求した。
僕よりも著書の売れ高の多い新進作家は大勢ある。――僕は二三の小説... | 底本:「芥川龍之介全集 第九巻」岩波書店
1996(平成8)年7月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:松永正敏
2002年5月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "004274",
"作品名": "岩野泡鳴氏",
"作品名読み": "いわのほうめいし",
"ソート用読み": "いわのほうめいし",
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"副題読み": "",
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"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2002-10-08T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/ca... |
去年の春の夜、――と云ってもまだ風の寒い、月の冴えた夜の九時ごろ、保吉は三人の友だちと、魚河岸の往来を歩いていた。三人の友だちとは、俳人の露柴、洋画家の風中、蒔画師の如丹、――三人とも本名は明さないが、その道では知られた腕っ扱きである。殊に露柴は年かさでもあり、新傾向の俳人としては、夙に名を馳せた男だった。
我々は皆酔っていた。もっとも風中と保吉とは下戸、如丹は名代の酒豪だったから、三人はふだんと変らなかった。ただ露柴はどうかすると、足もとも少々あぶなかった。我々は露柴を中にしながら、腥い月明りの吹かれる通りを、日本橋の方へ歩いて行った。
露柴は生っ粋の江戸っ児だった。曾祖父は蜀山や文晁と交遊の厚かった人である。家も河岸の丸清... | 底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:earthian
1998年12月28日公開
2004年3月9日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000177",
"作品名": "魚河岸",
"作品名読み": "うおがし",
"ソート用読み": "うおかし",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「婦人公論」1922(大正11)年8月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-12-28T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/... |
内田百間氏は夏目先生の門下にして僕の尊敬する先輩なり。文章に長じ、兼ねて志田流の琴に長ず。
著書「冥途」一巻、他人の廡下に立たざる特色あり。然れども不幸にも出版後、直に震災に遭へるが為に普く世に行はれず。僕の遺憾とする所なり。内田氏の作品は「冥途」後も佳作必ずしも少からず。殊に「女性」に掲げられたる「旅順開城」等の数篇等は戞々たる独創造の作品なり。然れどもこの数篇を読めるものは(僕の知れる限りにては)室生犀星、萩原朔太郎、佐佐木茂索、岸田国士等の四氏あるのみ。これ亦僕の遺憾とする所なり。天下の書肆皆新作家の新作品を市に出さんとする時に当り、内田百間氏を顧みざるは何故ぞや。僕は佐藤春夫氏と共に、「冥途」を再び世に行はしめんとせしも... | 底本:「芥川龍之介全集 第十五巻」岩波書店
1997(平成9)年1月8日発行
初出:「文芸時報 第四二号」
1927(昭和2)年8月4日発行
※本文中「志田流」は「生田流」の誤り。「旅順開城」は「旅順入城式」の誤り。
入力:もりみつじゅんじ
校正:土屋隆
2008年11月30日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "004312",
"作品名": "内田百間氏",
"作品名読み": "うちだひゃっけんし",
"ソート用読み": "うちたひやつけんし",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「文芸時報 第四二号」1927(昭和2)年8月4日",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-12-21T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.a... |
男は河から蘆を切つて來て、女の爲に産屋を葺いた。それから又引きかへして、前の河の岸へ行つた。さうして切りのこした蘆の中に跪いて、天照大神に、母と子との幸ひを祈つた。
日がくれかかると、女は産屋を出て、蘆の中にゐる男の所へ來た。
さうして「七日目に又來て下さい。その時に子どもを見せませう。」と云つた。
男は一日も早く、生まれた子が見たかつた。が、女の頼みは、父らしく素直にうけあつた。
その中に日が暮れた。男は蘆の中につないで置いた丸木舟に乘つて、河下の村へさみしく漕いで歸つた。
しかし村へ歸ると、男は、七日待つのが、身を切られるよりもつらく思はれた。
そこで、頸にかけた七つの曲玉を一日毎に、一つづゝとつて行つた。さうして... | 底本:「芥川龍之介全集 第一卷」岩波書店
1977(昭和52)年7月13日発行
初出:「鐘 第四號」
1917(大正6)年8月1日発行
入力:岡山勝美
校正:noriko saito
2010年9月9日作成
2011年4月14日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "051864",
"作品名": "産屋",
"作品名読み": "うぶや",
"ソート用読み": "うふや",
"副題": "萩原朔太郎君に献ず",
"副題読み": "はぎわらさくたろうくんにけんず",
"原題": "",
"初出": "「鐘 第四號」1917(大正6)年8月1日",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "旧字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2010-10-19T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://... |
この話の主人公は忍野半三郎と言う男である。生憎大した男ではない。北京の三菱に勤めている三十前後の会社員である。半三郎は商科大学を卒業した後、二月目に北京へ来ることになった。同僚や上役の評判は格別善いと言うほどではない。しかしまた悪いと言うほどでもない。まず平々凡々たることは半三郎の風采の通りである。もう一つ次手につけ加えれば、半三郎の家庭生活の通りである。
半三郎は二年前にある令嬢と結婚した。令嬢の名前は常子である。これも生憎恋愛結婚ではない。ある親戚の老人夫婦に仲人を頼んだ媒妁結婚である。常子は美人と言うほどではない。もっともまた醜婦と言うほどでもない。ただまるまる肥った頬にいつも微笑を浮かべている。奉天から北京へ来る途中、寝... | 底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月5日公開
2004年3月9日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの... | {
"作品ID": "000174",
"作品名": "馬の脚",
"作品名読み": "うまのあし",
"ソート用読み": "うまのあし",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「新潮」1925(大正14)年1、2月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-05T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/card... |
一
……雨はまだ降りつづけていた。僕等は午飯をすませた後、敷島を何本も灰にしながら、東京の友だちの噂などした。
僕等のいるのは何もない庭へ葭簾の日除けを差しかけた六畳二間の離れだった。庭には何もないと言っても、この海辺に多い弘法麦だけは疎らに砂の上に穂を垂れていた。その穂は僕等の来た時にはまだすっかり出揃わなかった。出ているのもたいていはまっ青だった。が、今はいつのまにかどの穂も同じように狐色に変り、穂先ごとに滴をやどしていた。
「さあ、仕事でもするかな。」
Mは長ながと寝ころんだまま、糊の強い宿の湯帷子の袖に近眼鏡の玉を拭っていた。仕事と言うのは僕等の雑誌へ毎月何か書かなければならぬ、その創作のことを指すのだった。
Mの... | 底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第三巻」筑摩書房
1971(昭和46)年
初出:「中央公論」
1925(大正14)年9月
入力:j.utiyama
校正:大野晋
1999年1月7日公開
2014年8月26日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000175",
"作品名": "海のほとり",
"作品名読み": "うみのほとり",
"ソート用読み": "うみのほとり",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「中央公論」1925(大正14)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-07T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/... |
一
僕の胃袋は鯨です。コロムブスの見かけたと云ふ鯨です。時々潮も吐きかねません。吼える声を聞くのには飽き飽きしました。
二
僕の舌や口腔は時々熱の出る度に羊歯類を一ぱいに生やすのです。
三
一体下痢をする度に大きい蘇鉄を思ひ出すのは僕一人に限つてゐるのかしら?
四
僕は腹鳴りを聞いてゐると、僕自身いつか鮫の卵を産み落してゐるやうに感じるのです。
五
僕は憂鬱になり出すと、僕の脳髄の襞ごとに虱がたかつてゐるやうな気がして来るのです。
(大正十五年五月) | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "003823",
"作品名": "囈語",
"作品名読み": "うわごと",
"ソート用読み": "うわこと",
"副題": "",
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"分類番号": "NDC 916",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-16T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3823.html... |
目のあらい簾が、入口にぶらさげてあるので、往来の容子は仕事場にいても、よく見えた。清水へ通う往来は、さっきから、人通りが絶えない。金鼓をかけた法師が通る。壺装束をした女が通る。その後からは、めずらしく、黄牛に曳かせた網代車が通った。それが皆、疎な蒲の簾の目を、右からも左からも、来たかと思うと、通りぬけてしまう。その中で変らないのは、午後の日が暖かに春を炙っている、狭い往来の土の色ばかりである。
その人の往来を、仕事場の中から、何と云う事もなく眺めていた、一人の青侍が、この時、ふと思いついたように、主の陶器師へ声をかけた。
「不相変、観音様へ参詣する人が多いようだね。」
「左様でございます。」
陶器師は、仕事に気をとられていたせ... | 底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年9月24日第1刷発行
1995(平成7)年10月5日第13刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:earthian
1998年11月11日公開
2004年3月9日修正
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "000176",
"作品名": "運",
"作品名読み": "うん",
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"初出": "「文章世界」1917(大正6)年1月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-11-11T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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中村さん。
問題が大きいので、ちよいと手軽に考をまとめられませんが、ざつと思ふ所を云へばかうです。
元来芸術の内容となるものは、人としての我々の生活全容に外ならないのだから、二重生活と云ふ事は、第一義的にはある筈がないと考へます。
が、それが第二義的な意味になると、いろいろむづかしい問題が起つて来る。生活を芸術化するとか、或は逆に芸術を生活化するとか云ふ事も、そこから起つて来るのでせう。
あなたの手紙にあつた芸術家の職業問題などは、それを更に一歩皮相な方面へ移して来ての問題だと思ひます。
だから「物心両面に於ける人としての生活と、芸術家としての生活の関係交渉」と云つても、それぞれの意義に相当な立場をきめてかからないと、折... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "003751",
"作品名": "永久に不愉快な二重生活",
"作品名読み": "えいきゅうにふゆかいなにじゅうせいかつ",
"ソート用読み": "えいきゆうにふゆかいなにしゆうせいかつ",
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"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
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"公開日": "2007-07-10T00:00:00",
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「何しろ項羽と云う男は、英雄の器じゃないですな。」
漢の大将呂馬通は、ただでさえ長い顔を、一層長くしながら、疎な髭を撫でて、こう云った。彼の顔のまわりには、十人あまりの顔が、皆まん中に置いた燈火の光をうけて、赤く幕営の夜の中にうき上っている。その顔がまた、どれもいつになく微笑を浮べているのは、西楚の覇王の首をあげた今日の勝戦の喜びが、まだ消えずにいるからであろう。――
「そうかね。」
鼻の高い、眼光の鋭い顔が一つ、これはやや皮肉な微笑を唇頭に漂わせながら、じっと呂馬通の眉の間を見ながら、こう云った。呂馬通は何故か、いささか狼狽したらしい。
「それは強いことは強いです。何しろ塗山の禹王廟にある石の鼎さえ枉げると云うのですからな。現... | 底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年10月28日第1刷発行
1996(平成8)年7月15日第11刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月7日公開
2004年3月10日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000035",
"作品名": "英雄の器",
"作品名読み": "えいゆうのうつわ",
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"初出": "「人文」1918(大正7)年1月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-12-07T00:00:00",
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江口は決して所謂快男児ではない。もっと複雑な、もっと陰影に富んだ性格の所有者だ。愛憎の動き方なぞも、一本気な所はあるが、その上にまだ殆病的な執拗さが潜んでいる。それは江口自身不快でなければ、近代的と云う語で形容しても好い。兎に角憎む時も愛する時も、何か酷薄に近い物が必江口の感情を火照らせている。鉄が焼けるのに黒熱と云う状態がある。見た所は黒いが、手を触れれば、忽その手を爛らせてしまう。江口の一本気の性格は、この黒熱した鉄だと云う気がする。繰返して云うが、決して唯の鉄のような所謂快男児などの類ではない。
それから江口の頭は批評家よりも、やはり創作家に出来上っている。議論をしても、論理よりは直観で押して行く方だ。だから江口の批評は、... | 底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社
1995(平成7)年1月10日第1刷発行
底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店
1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月発行
入力:向井樹里
校正:砂場清隆
2007年2月12日作成
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"作品ID": "043364",
"作品名": "江口渙氏の事",
"作品名読み": "えぐちかんしのこと",
"ソート用読み": "えくちかんしのこと",
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"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"公開日": "2007-03-13T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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槐と云ふ樹の名前を覚えたのは「石の枕」と云ふ一中節の浄瑠璃を聞いた時だつたであらう。僕は勿論一中節などを稽古するほど通人ではない。唯親父だのお袋だのの稽古してゐるのを聞き覚えたのである。その文句は何でも観世音菩薩の「庭に年経し槐の梢」に現れるとか何とか云ふのだつた。
「石の枕」は一つ家の婆さんが石の枕に旅人を寝かせ、路用の金を奪ふ為に上から綱に吊つた大石を落して旅人の命を奪つてゐる、そこへ美しい稚児が一人、一夜の宿りを求めに来る。婆さんはこの稚児も石の枕に寝かせ、やはり殺して金をとらうとする。すると婆さんの真名娘が私かにこの稚児に想ひを寄せ、稚児の身代りになつて死んでしまふ、それから稚児は観世音菩薩と現れ、婆さんに因果応報を教へる... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "003825",
"作品名": "槐",
"作品名読み": "えんじゅ",
"ソート用読み": "えんしゆ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 768 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-10T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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一
高志の大蛇を退治した素戔嗚は、櫛名田姫を娶ると同時に、足名椎が治めてゐた部落の長となる事になつた。
足名椎は彼等夫婦の為に、出雲の須賀へ八広殿を建てた。宮は千木が天雲に隠れる程大きな建築であつた。
彼は新しい妻と共に、静な朝夕を送り始めた。風の声も浪の水沫も、或は夜空の星の光も今は再彼を誘つて、広漠とした太古の天地に、さまよはせる事は出来なくなつた。既に父とならうとしてゐた彼は、この宮の太い棟木の下に、――赤と白とに狩の図を描いた、彼の部屋の四壁の内に、高天原の国が与へなかつた炉辺の幸福を見出したのであつた。
彼等は一しよに食事をしたり、未来の計画を話し合つたりした。時々は宮のまはりにある、柏の林に歩みを... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月17日公開
2004年2月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000118",
"作品名": "老いたる素戔嗚尊",
"作品名読み": "おいたるすさのおのみこと",
"ソート用読み": "おいたるすさのおのみこと",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1920(大正9)年3~6月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-17T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": ... |
童 やあ、あそこへ妙な法師が来た。みんな見ろ。みんな見ろ。
鮓売の女 ほんたうに妙な法師ぢやないか? あんなに金鼓をたたきながら、何だか大声に喚いてゐる。……
薪売の翁 わしは耳が遠いせゐか、何を喚くのやら、さつぱりわからぬ。もしもし、あれは何と云うて居りますな?
箔打の男 あれは「阿弥陀仏よや。おおい。おおい」と云つてゐるのさ。
薪売の翁 ははあ、――では気違ひだな。
箔打の男 まあ、そんな事だらうよ。
菜売の媼 いやいや、難有い御上人かも知れぬ。私は今の間に拝んで置かう。
鮓売の女 それでも憎々しい顔ぢやないか? あんな顔をした御上人が何処の国にゐるものかね。
菜売の媼 勿体ない事を御云ひでない。罰でも当つたら、どうおしだえ?
... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:earthian
1998年12月28日公開
2004年2月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000117",
"作品名": "往生絵巻",
"作品名読み": "おうじょうえまき",
"ソート用読み": "おうしようえまき",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「国粋」1921(大正10)年4月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-12-28T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp... |
これは御覧の通り覚え書に過ぎない。覚え書を覚え書のまま発表するのは時間の余裕に乏しい為である。或は又その外にも気持の余裕に乏しい為である。しかし覚え書のまま発表することに多少は意味のない訣でもない。大正十二年九月十四日記。
本所横網町に住める一中節の師匠。名は鐘大夫。年は六十三歳。十七歳の孫娘と二人暮らしなり。
家は地震にも潰れざりしかど、忽ち近隣に出火あり。孫娘と共に両国に走る。携へしものは鸚鵡の籠のみ。鸚鵡の名は五郎。背は鼠色、腹は桃色。芸は錺屋の槌の音と「ナアル」(成程の略)といふ言葉とを真似るだけなり。
両国より人形町へ出づる間にいつか孫娘と離れ離れになる。心配なれども探してゐる暇なし。往来の人波。荷物の山。カナリ... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "003763",
"作品名": "鸚鵡",
"作品名読み": "おうむ",
"ソート用読み": "おうむ",
"副題": "――大震覚え書の一つ――",
"副題読み": "――だいしんおぼえがきのひとつ――",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-13T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp... |
自分は、大川端に近い町に生まれた。家を出て椎の若葉におおわれた、黒塀の多い横網の小路をぬけると、すぐあの幅の広い川筋の見渡される、百本杭の河岸へ出るのである。幼い時から、中学を卒業するまで、自分はほとんど毎日のように、あの川を見た。水と船と橋と砂洲と、水の上に生まれて水の上に暮しているあわただしい人々の生活とを見た。真夏の日の午すぎ、やけた砂を踏みながら、水泳を習いに行く通りすがりに、嗅ぐともなく嗅いだ河の水のにおいも、今では年とともに、親しく思い出されるような気がする。
自分はどうして、こうもあの川を愛するのか。あのどちらかと言えば、泥濁りのした大川のなま暖かい水に、限りないゆかしさを感じるのか。自分ながらも、少しく、その説明... | 底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店
1950(昭和25)年10月20日初版発行
1985(昭和60)年11月10日改版38版発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月11日公開
2004年3月10日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000123",
"作品名": "大川の水",
"作品名読み": "おおかわのみず",
"ソート用読み": "おおかわのみす",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「心の花」1914(大正3)年4月",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-11T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/c... |
或秋の夜、僕は本郷の大学前の或古本屋を覗いて見た。すると店先の陳列台に古い菊判の本が一冊、「大久保湖州著、家康と直弼、引ナシ金五十銭」と云ふ貼り札の帯をかけたまま、雑書の上に抛り出してあつた。僕はこの本の挨を払ひ、ちよつと中をひろげて見た。中は本の名の示す通り、徳川家康と井伊直弼とに関する史論を集めたものらしかつた。が偶然開いた箇所は附録に添へてある雑文だつた。「人の一生」――僕はこの雑文の一つにかう云ふ名のあるのを発見した。
人の一生
徳川家康
急ぐべからず。
心に望おこらば困窮したる時を思ひ出すべし。
怒は敵と思へ。
勝つ事ばかり知てまくる事をしらざれば害其身に至る。
及ばざるは過ぎたるより勝れり。... | 底本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店
1996(平成8)年9月9日発行
底本の親本:「梅・馬・鶯」新潮社
1926(大正15)年12月25日発行
初出:(上)「女性改造 第三巻第五号」
1924(大正13)年5月1日発行
(下)「女性改造 第三巻第六号」
1924(大正13)年6月1日発行
※「女性改造」連載の文芸講話「僻見」の第三章として掲載された。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:もりみつじゅんじ
校正:土屋隆
2008年12月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://... | {
"作品ID": "049328",
"作品名": "大久保湖州",
"作品名読み": "おおくぼこしゅう",
"ソート用読み": "おおくほこしゆう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "(上)「女性改造 第三巻第五号」1924(大正13)年5月1日、(下)「女性改造 第三巻第六号」1924(大正13)年6月1日",
"分類番号": "NDC 289 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-12-21T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21... |
僕は膝を抱へながら、洋画家のO君と話してゐた。赤シヤツを着たO君は畳の上に腹這ひになり、のべつにバツトをふかしてゐた。その又O君の傍らには妙にものものしい義足が一つ、白足袋の足を仰向かせてゐた。
「まだ残暑と云ふ感じだね。」
O君は返事をする前にちよつと眉をひそめるやうにし、縁先の紫苑へ目をやつた。何本かの紫苑はいつの間にか細かい花を簇らせたまま、そよりともせずに日を受けてゐた。
「おや、こいつはもう咲いてゐらあ。この………何と云つたつけ、団扇の画の中にゐる花の野郎は。」
×
海の音の聞えない、空気の澄んだ日の暮だつた。僕はやはりO君と一しよに広い砂の道を散歩してゐた。すると向うからお嬢さんが一人、生け垣に沿うて... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "003824",
"作品名": "O君の新秋",
"作品名読み": "オーくんのしんしゅう",
"ソート用読み": "おおくんのしんしゆう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-13T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00087... |
今般、当村内にて、切支丹宗門の宗徒共、邪法を行ひ、人目を惑はし候儀に付き、私見聞致し候次第を、逐一公儀へ申上ぐ可き旨、御沙汰相成り候段屹度承知仕り候。
陳者、今年三月七日、当村百姓与作後家篠と申す者、私宅へ参り、同人娘里(当年九歳)大病に付き、検脈致し呉れ候様、懇々頼入り候。
右篠と申候は、百姓惣兵衛の三女に有之、十年以前与作方へ縁付き、里を儲け候も、程なく夫に先立たれ、爾後再縁も仕らず、機織り乃至賃仕事など致し候うて、その日を糊口し居る者に御座候。なれども、如何なる心得違ひにてか、与作病死の砌より、専ら切支丹宗門に帰依致し、隣村の伴天連ろどりげと申す者方へ、繁々出入致し候間、当村内にても、右伴天連の妾と相成候由、取沙汰致す者... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:野口英司
1998年10月5日公開
2004年2月19日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000115",
"作品名": "尾形了斎覚え書",
"作品名読み": "おがたりょうさいおぼえがき",
"ソート用読み": "おかたりようさいおほえかき",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「新潮」1917(大正6)年1月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-10-05T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.... |
元和か、寛永か、とにかく遠い昔である。
天主のおん教を奉ずるものは、その頃でももう見つかり次第、火炙りや磔に遇わされていた。しかし迫害が烈しいだけに、「万事にかない給うおん主」も、その頃は一層この国の宗徒に、あらたかな御加護を加えられたらしい。長崎あたりの村々には、時々日の暮の光と一しょに、天使や聖徒の見舞う事があった。現にあのさん・じょあん・ばちすたさえ、一度などは浦上の宗徒みげる弥兵衛の水車小屋に、姿を現したと伝えられている。と同時に悪魔もまた宗徒の精進を妨げるため、あるいは見慣れぬ黒人となり、あるいは舶来の草花となり、あるいは網代の乗物となり、しばしば同じ村々に出没した。夜昼さえ分たぬ土の牢に、みげる弥兵衛を苦しめた鼠も、... | 底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月5日公開
2004年3月9日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000116",
"作品名": "おぎん",
"作品名読み": "おぎん",
"ソート用読み": "おきん",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「中央公論」1922(大正11)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-05T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00... |
保吉は三十になったばかりである。その上あらゆる売文業者のように、目まぐるしい生活を営んでいる。だから「明日」は考えても「昨日」は滅多に考えない。しかし往来を歩いていたり、原稿用紙に向っていたり、電車に乗っていたりする間にふと過去の一情景を鮮かに思い浮べることがある。それは従来の経験によると、たいてい嗅覚の刺戟から聯想を生ずる結果らしい。そのまた嗅覚の刺戟なるものも都会に住んでいる悲しさには悪臭と呼ばれる匂ばかりである。たとえば汽車の煤煙の匂は何人も嗅ぎたいと思うはずはない。けれどもあるお嬢さんの記憶、――五六年前に顔を合せたあるお嬢さんの記憶などはあの匂を嗅ぎさえすれば、煙突から迸る火花のようにたちまちよみがえって来るのである。
... | 底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:earthian
1998年12月28日公開
2004年3月9日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000119",
"作品名": "お時儀",
"作品名読み": "おじぎ",
"ソート用読み": "おしき",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「女性」1923(大正12)年10月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-12-28T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000... |
ここは南蛮寺の堂内である。ふだんならばまだ硝子画の窓に日の光の当っている時分であろう。が、今日は梅雨曇りだけに、日の暮の暗さと変りはない。その中にただゴティック風の柱がぼんやり木の肌を光らせながら、高だかとレクトリウムを守っている。それからずっと堂の奥に常燈明の油火が一つ、龕の中に佇んだ聖者の像を照らしている。参詣人はもう一人もいない。
そう云う薄暗い堂内に紅毛人の神父が一人、祈祷の頭を垂れている。年は四十五六であろう。額の狭い、顴骨の突き出た、頬鬚の深い男である。床の上に引きずった着物は「あびと」と称える僧衣らしい。そう云えば「こんたつ」と称える念珠も手頸を一巻き巻いた後、かすかに青珠を垂らしている。
堂内は勿論ひっそりして... | 底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
初出:「中央公論」
1923(大正12)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月5日公開
2012年3月20日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作ら... | {
"作品ID": "000125",
"作品名": "おしの",
"作品名読み": "おしの",
"ソート用読み": "おしの",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「中央公論」1923(大正12)年4月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-05T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/00... |
一
明治元年五月十四日の午過ぎだつた。「官軍は明日夜の明け次第、東叡山彰義隊を攻撃する。上野界隈の町家のものは匇々何処へでも立ち退いてしまへ。」――さう云ふ達しのあつた午過ぎだつた。下谷町二丁目の小間物店、古河屋政兵衛の立ち退いた跡には、台所の隅の蚫貝の前に大きい牡の三毛猫が一匹静かに香箱をつくつてゐた。
戸をしめ切つた家の中は勿論午過ぎでもまつ暗だつた。人音も全然聞えなかつた。唯耳にはひるものは連日の雨の音ばかりだつた。雨は見えない屋根の上へ時々急に降り注いでは、何時か又中空へ遠のいて行つた。猫はその音の高まる度に、琥珀色の眼をまん円にした。竈さへわからない台所にも、この時だけは無気味な燐光が見えた。が、ざあつ... | 底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月19日公開
2004年2月19日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000126",
"作品名": "お富の貞操",
"作品名読み": "おとみのていそう",
"ソート用読み": "おとみのていそう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「改造」1922(大正11)年5、9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-19T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr... |
彼は或町の裏に年下の彼女と鬼ごつこをしてゐた。まだあたりは明るいものの、丁度町角の街燈には瓦斯のともる時分だつた。
「ここまで来い。」
彼は楽々と逃げながら、鬼になつて来る彼女を振りかへつた。彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追ひかけて来た。彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしてゐるなと思つた。
その顔は可也長い間、彼の心に残つてゐた。が、年月の流れるのにつれ、いつかすつかり消えてしまつた。
それから二十年ばかりたつた後、彼は雪国の汽車の中に偶然、彼女とめぐり合つた。窓の外が暗くなるのにつれ、沾めつた靴や外套の匀ひが急に身にしみる時分だつた。
「暫くでしたね。」
彼は巻煙草を銜へながら、(それは彼が同志と一しよに刑務所を... | 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "003826",
"作品名": "鬼ごつこ",
"作品名読み": "おにごっこ",
"ソート用読み": "おにこつこ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-07-13T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3826.... |
一
雨降りの午後、今年中学を卒業した洋一は、二階の机に背を円くしながら、北原白秋風の歌を作っていた。すると「おい」と云う父の声が、突然彼の耳を驚かした。彼は倉皇と振り返る暇にも、ちょうどそこにあった辞書の下に、歌稿を隠す事を忘れなかった。が、幸い父の賢造は、夏外套をひっかけたまま、うす暗い梯子の上り口へ胸まで覗かせているだけだった。
「どうもお律の容態が思わしくないから、慎太郎の所へ電報を打ってくれ。」
「そんなに悪いの?」
洋一は思わず大きな声を出した。
「まあ、ふだんが達者だから、急にどうと云う事もあるまいがね、――慎太郎へだけ知らせた方が――」
洋一は父の言葉を奪った。
「戸沢さんは何だって云うんです?... | 底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年1月27日第1刷発行
1993(平成5)年12月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月19日公開
2004年3月9日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000124",
"作品名": "お律と子等と",
"作品名読み": "おりつとこらと",
"ソート用読み": "おりつとこらと",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「中央公論」1920(大正9)年10、11月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1998-12-19T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.... |
……わたしはこの温泉宿にもう一月ばかり滞在しています。が、肝腎の「風景」はまだ一枚も仕上げません。まず湯にはいったり、講談本を読んだり、狭い町を散歩したり、――そんなことを繰り返して暮らしているのです。我ながらだらしのないのには呆れますが。(作者註。この間に桜の散っていること、鶺鴒の屋根へ来ること、射的に七円五十銭使ったこと、田舎芸者のこと、安来節芝居に驚いたこと、蕨狩りに行ったこと、消防の演習を見たこと、蟇口を落したことなどを記せる十数行あり。)それから次手に小説じみた事実談を一つ報告しましょう。もっともわたしは素人ですから、小説になるかどうかはわかりません。ただこの話を聞いた時にちょうど小説か何か読んだような心もちになったと言... | 底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:大野晋
1999年1月17日公開
2004年3月9日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000121",
"作品名": "温泉だより",
"作品名読み": "おんせんだより",
"ソート用読み": "おんせんたより",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「女性」1925(大正14)年6月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-01-17T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/... |
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